「さすがの私でもあれ以来、店には少し行き辛くて。一緒に飲んでいた別の常連客に連絡を取り、探りを入れるために別の店に飲みに行ったんです。スタッフの彼は最近、仕事が決まって、店にはあんまり入れなくなってるらしいと話していました。驚いたのは、彼がオーナーの甥っ子だということ、みんな知っていたみたいなんです。それに……」
知っているとは思うけど……そう前置きして常連客はレナと彼が腐れ縁だという話を始めた。もう8年近く、2人は付き合ったり、離れたりを繰り返しているのだという。そして最近、また復縁をしたらしい。ついに結婚するんじゃないないかな〜楽しみだね、と呑気に話をした。葵にとってはまさに寝耳に水、晴天の霹靂である。
「嘘でしょって。知らなかったのは私だけ、みたいな。何でも知っていると思っていたのに、あの店のことなら。常連客はここのところレナが友達を連れて来たりしてて、楽しいよと話していました。気が向いたらおいでよと言われましたが、行けるわけありませんよね、マジで」
こうして、葵はまた一つ行きつけの店を失った。しかし、葵はへこたれない。今は隣の駅にある焼き鳥屋に通っているという。
「楽しいですよ。知らないところで常連作っていくっていうのも。終わったことは終わったこと。またガンガン飲んで、開けっ広げに話をして、スタッフ誘ってご飯行ってます」
懲りない女である。
「よく飲む男の子には、これまでの彼女が常連にいないか、確認しましたよ、さすがに。あんな修羅場になるのはいやですからね」
修羅場といえば、修羅場だが、それもこれも葵が1人で起こしたことである。
ただ、葵が話すとそれはまるで違う話になる。
「えーだって、若いスタッフに言い寄られて付き合いそうになったら、昔の彼女が出てきたって感じじゃないですか。こわいこわい。訴えられるところだったんですよ。この話、かなり盛り上がるんで今の店でガンガンしてます」
本当に懲りない女なのである。こうやって各所で炎上を繰り返す葵が最後に、かの炎上系だった元議員のようにならないといいが。
ライター 悠木律