逮捕状が請求された元議員に代表されるような炎上商法は、今や他人事ではない。不特定多数の人が閲覧するSNSは炎上商法の格好の場所である。
しかし、世の中にはリアルな場所で炎上商法を繰り広げる輩もいる。本人はまるで意識していないようだが、東郷葵(仮名 47)もそんな人たちのひとりだ。
「私って、結構思っていることを直接言っちゃうタイプなんです。だから、昔から揉め事が多くって。揉めたくらいで、だめになる関係ならそもそもうまくいきませんよね」
葵は絵に描いたような自サバ女でもある。彼女のやり口はいつも同じ。ステップ1は行きつけの店を作ること。
「私、美容師なんです。だから火曜休み。毎日飲みますが、がっと飲むのは月曜の夜ですね。ハイボールが好きなんで居酒屋専門。おしゃれな店より、赤提灯系が好きです。でも、トイレだけはきれいじゃなきゃ嫌。汚い店にはいかなくなりますね」
葵は行きつけの店を見つけるととにかく通い詰める。週3上等、多いときは週5で通い詰めることもあるという。
「行きつけの店って、結構融通聞いてくれるじゃないですか。私、炭水化物控えてるんでつまみ中心。ちょっと多い量のものを1人用にしてくれるような気の利いた店、好きですね」
ステップ2は常連同士の人脈を作ること。
「こんだけ通い詰めれば、スタッフとは自然と顔馴染みに。名前はもちろん仕事とかどこに住んでるとか、素性は大体話しちゃいます。こういう裏表ないっていうか、開けっぴろげな性格なんで、隣に座った人とかとも盛り上がっちゃうんですよ。結局、朝まで飲じゃった!そんなことも数知れず……です。最近は常連客同士で待ち合わせたりしてますね」
葵は常連とは満遍なく、仲良く話す方だったが、特にお気に入りだったのがレナという年下の女性だ。一般企業に勤めるOLで少し地味な見た目が葵の気を引いた。
「だってダサいですよ。なんか、ちょっと。東京生まれ、東京育ちらしいんですけど、服とかどこで買ったんだよ!みたいなの着てるんです。それに髪の毛とかメイクとかもイケてなくて、私が黙ってられなくて……。いろいろアドバイスしちゃってますね」
これがステップ3、ターゲットをとことんイジるだ。
「彼女のことをみんなで改造しよう!って常連みんなで盛り上がってて。彼女も喜んでると思いますよ。友達も全然いないみたいなんで」
豪快に笑っているが、かなりのセクハラ、モラハラ、ルッキズムにも触りそうな内容である。しかし、葵はおかまいなし。
「楽しい方がいいじゃないですか。彼女だって嫌なら、お店にこなきゃいいんだし。通ってくるってことはそんなに嫌じゃないんですよ、きっと」
こんな具合に葵は自分のペース全開で生きているのである。ここまででもかなりの迷惑客に思えるが、炎上商法はまだまだこれからが本番だ。
ステップ4は店の陰口をたたく。
「最近ちょっと高いよねとか、味が変わったとか話しますねー。店の中でやるのは、さすがにって感じなんで2軒目行ったときとか。好きだからこそ、言っているんで悪口って感覚はありませんね。なんて言うのかな、アドバイス?」
なんとこれ、常連同士だけでなく、店ではたらくスタッフにも話すんだという。
「だって常連だけで話していても伝わらないでしょう?店のオーナーに話すのはちょっと気が引けるけど、ほかのスタッフに話すんなら全然。彼らも人生経験。いろんな人や考え方があることを学ぶチャンスですよ」
もはやメチャクチャである。挙げ句の果てに、スタッフの働き方や私生活にダメ出しをすることもあるんだという。
「どんどん言っちゃいますねー。黙ってても仕方がないんで。だって、私の性格を知った上で飲みについて来てるんだから、それくらい言われるのわかってるでしょう?言われたくないなら来なきゃいいんですよ」
客からの誘いに否応なく応じているスタッフは散々である。
そんなふうに周りにあること、ないこと言いまわり、炎上させるのが葵のやり方だ。面倒な客と思われることで、店側は気を遣わざるを得なくなるのだ。
「えっ。でも私、悪いことしたなぁと思ったらすぐに謝りますし、お酒も奢りますよ。これでお互い様ですよね?」
これがステップ6のおごり作戦だ。この一連の行動を同じ店で相手を変えて繰り返すのが常套手段。店側としては、たまったものではない。とはいえ、相手は客。追い出すわけにもいかない。それに葵は金払いだけはいい。店とすれば商売的にも、簡単にさようならとは言えない事情もあるのだ。
そんな葵が最近、目をつけているのが、中堅スタッフの男の子だ。
「20代後半かな?私にとっては男性というより男の子って感じですね。なんでも俳優志望らしくて。まぁ、顔は結構イケてる感じあります。もう少し、改造できるところあるなぁと思ってるんです」
葵は彼にもステップ3のとことんイジるを実践した。葵曰く、スタッフはまんざらでもない様子だったらしい。
「なんか年上好きらしいんです。私みたいな人にあーしろこーしろ言われるのが。こっちもそれを聞いたら、なおさらかまうようになっちゃって……。初めは店でかまっていたんですが、最近はプライベートで食事へ行くこともあります。ただ、私は気があるとかじゃないですよ、マジで。大体、数人でご飯食べているだけですからね」
そう言いながら、葵もまんざらでもなさそうな表情。とはいえ、そう簡単には恋心を認めることはない。
「私ってサバサバしてるじゃないですか?だから彼も楽なんじゃないかな?これまでの恋愛は相手からの愛情がエスカレートするパターンも多かったみたいなんで」
葵は彼と食事にいくたび、全額を支払っていた。自分よりひと回り以上下の子に払わせるわけにはいかない……そんな意地もあったようだ。
「そこはね。でも最近、会う頻度が高くて、金額がだんだん上がってきちゃってて。外ばっかじゃ辛いんで家にきてもらうことも多くなりましたね」
しかし、彼が働く居酒屋には行っていないのだろうか?☆次回、衝撃の展開へ……。反面教師として読み進めてほしい☆
取材/文 悠木律