康太は浮気相手のことを話したがるはずもないが、何とか聞き出した少しの情報とスマホのデータから本名と電話番号はメモした。これらの情報から、麻央は相手のことを探り始めた。麻央はITやマーケティング系の企業で働いているので、情報収集やリサーチは得意分野だ。
すると、すぐに相手女性のInstagramとFacebookにたどり着き、住んでいる駅、夫の勤務先、子どもの学校まで把握することができた。この女性は自己顕示欲が強いが頭の弱いタイプのようで、自撮りの写真がたくさん載ったSNSでは個人情報がダダ漏れだった。
康太と不倫をしていたにも関わらず、自分の夫と子どもとの写真をアップして「#幸せ家族」とハッシュタグをつけていたので、麻央は笑ってしまった。何より、こんなバカな女に引っかかった元夫にがっかりしていた。
しばらくして麻央は引っ越し先を決めた。康太は「別れたくない」と言っていたが、麻央は家を出ることに迷いはなかった。
麻央の新居のチャイムが鳴ったので応答する。
「佐田さん、集荷依頼ありがとうございます。お荷物の準備はできていますか?」
先日も配達に来てくれた和久本が話している。
「こんにちは。準備できているので上まで来てください」
部屋の前まで来た和久本に、麻央は笑顔で話しかける。
「今日も暑いですね、配達ご苦労様です」
「ほんとに暑いですよね! 夏はつらいですよ~。お荷物はどちらですか?」
「これなんですけど」
麻央はA4サイズのクリアファイルを渡す。
「え? これですか? このまま送りますか?」
「はい、これを和久本友梨佳さんにお渡ししたくて」
「……どういうことですか?」
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