「いいわよねえ、お引越しに来ていた業者も私見たけど、海外用の業者だから普通とちょっと違っててね、奥さんも鼻が高そうで……ここのお部屋は売りに出すらしいわよ。しかもちょうど奥さん妊娠されてて、あちらでご出産予定だとか。うらやましいわよねぇ」
由香里は、立て続けに突きつけられる事実にくらくらと目眩がするようだった。
可哀想で、思わず肩を貸し、身体も預けてしまったというのに。
私みたいな既婚者相手なら、口外できないし、きっと周囲に言わずに黙ってると踏んでいるのだろう。そしてそれは、とても正しい。
ああ、いなくなる前に嘘の言い訳を並べて、同情を引いて——今思えばあの涙も嘘で、綺麗な顔立ちの奥に狡猾な表情があったことをどうして私は見抜けなかったのだろう。
でも、まあ、立つ鳥跡を濁しまくりだけど、断らなかったのも結局、私だしなぁ。
由香里はリビングのソファに座り、小さく天を仰いだ。冷めたハーブティーをすする。
少し汚されてしまった、この小さな城の中で、明日からも私は生きていかねばならない。子供にも夫にもこんなことがあったなんて少しも気づかれないように、笑顔で朝の挨拶もしながら、この城を守っていかねばならない。
それが人生というもので、それが私が選んだ道なのだから。また似たような小さな事件があったとしても、私なら隠し通せる。そう自分に言い聞かせ、由香里は家事に取り掛かった。
Text:女の事件簿調査チーム
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