「課長、こんなに聞いてくださってありがとうございます。元はと言えば、私がいつも空気を読めないことが原因なんです、いつもこうなので……」
ひと通り話した後、由依は涙を拭きながら飯田に礼を伝えた。
「いやいや、僕もフロアを管理する人間として何が起きているかは知ってる必要があるしね。それに……中村さん、だっけ。君のことは気がかりだったから」
飯田は、由依の苗字を確かめるようにゆっくりと口にした。
その名前は確かに正解だったけれど、由依は「自分のことを知ってくれていた」ことに感激していたあまり、その曖昧な物言いに違和感を感じることはなかった。飯田が、相手のことが誰だっていいような物言いだ、ということに。
「じゃあ、行こうか」
そう言ってスマートに会計を済ませた飯田は、店を出た瞬間にぐっと由依の腕をつかんだ。
「……課長?」
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