そうだ、もし夫にバレたら二人の間に当たり前のようにあった絆や信頼が壊れてしまう。それだけではない、夫も失ってしまうだろう。
現実を直視すると、浮ついた気持ちが一瞬で消え去った。
亮とはすぐに終わらせなければいけない。まだ間に合う。元の生活に戻らなければ。
翌朝目覚めるとさらに罪悪感が増し、恐怖に押し潰されそうになった。気に入っていた職場だったが、体調不良を理由に派遣元の担当者に契約は更新しないこと、できれば早く退職したいことを申し入れた。一刻も早く亮との繋がりを断って無かったことにしたかった。
舞のこの急な行動を不審に思った夫が冷たい顔で尋ねてきた。
「辞めなきゃいけないようなことでもあったの?」
なんて返事をしたのか覚えていない。上手く誤魔化せたかどうかもわからない。
けれど、はっきりとバレたわけではない。
自分の罪の後始末が終われば、きっと元の生活に戻れる……そう信じていた。
会社を離れてから、ようやく亮の部屋を訪れることができた。亮なら「わざわざ別れ話なんてしなくても」なんて笑いそうだと思ったが、きちんと別れを告げて全てをなかったことにしたかった。
「もう会えない」
舞は無言電話の件などを話しつつ、亮に状況を説明した。
亮は驚いた顔つきのまま舞を見つめた。そしてその顔はどんどん捨てられた子犬のような悲しい顔になっていった。
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