舞の目を逸らさせないよう、亮は強い力で舞の顔を両手で掴んだ。
待って、待って。どうなってるの。私はここで死ぬの? 嫌と言えば逆上して首を絞められそうだ。
恐怖に震えながら、精一杯強がって亮を見つめ返した。
「いいよ」
目を逸らしたのは亮だった。
「舞は最後まで嘘つきだ。もう帰って」
亮はソファから立ち上がって洗面室へ入って行った。水の流れる音と亮の嗚咽を聞きながら舞は言われた通りに部屋を出た。
夜道を歩いているうちに、舞は本当に死にたい気分になった。夫と別れる気もないくせに、無邪気に亮の心を弄んだ自分。それは意識的ではないにしろ、無意識でもなかったはずだ。
「ドロドロじゃない関係が心地いい」
「亮のドライで割り切ったところも大好き」
そう言って自分に都合の悪い言葉は言わせないように、亮の潜在意識に幾度となく刷り込んで規制線を張っていたのだ。
数ヵ月後、何も知らない元同僚から、亮が会社を辞めて実家のある名古屋に帰ったと聞いた。ミスを連発した後、会社を休みがちになっていたという。
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