親の意に反することをする。それは涼子とって人生初のクーデターだ。
孝は約束通り、週末になると涼子の親の許しを請いにやってきた。けれど、両親は来ることを知りながら外出。なかなか会おうとはしなかったが孝は諦めなかった。
「来年、必ず一級建築士の資格を取って、認めてもらえるよう頑張るから」
その言葉どおり、孝は難関試験を一発で合格。その後、両親の態度が軟化し二人は結婚。子どもが産まれると母はしょっちゅう訪れてきては、涼子が呆れるほど甘々なおばあちゃんになった。今では夫婦が喧嘩をすると「あなたが悪い」と孝の肩を持つ。
義母は結婚後ほどなくして病気で亡くなった。葬式の後、義兄から孝名義の通帳を渡された。孝が結婚後も頑なに送り続けた仕送りを、義母は一切手をつけずに貯めていたのだ。涼子は人目も憚らず子供のように号泣する孝を見ながら「私が必ず幸せにします」と義母に誓った。
孝は涼子の母が娘の結婚相手に求めたものは何ひとつ持ってはいなかったが、幸せにする素養は持ち合わせていた。結婚は人生のゴールではなく、むしろそこからが山あり谷ありだ。
高いスペックだけでは乗り越えられない壁はきっとある。苦難にさいなまれた時にお互いの足りないものを補い合え、思いやる気持ちを持てることの方がよっぽど重要なのだ。
Text:女の事件簿調査チーム
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