これまで狭い枠の中で見栄を張り、一体自分は何を守ってきたのだろうか。ソツのない人生といえば聞こえは良いが、要は安全で見栄えのする方を選択してきただけだ。今の自分の仕事もそうだ。目的や目標などはない。
それに比べ、この人はどうだ。自分を飾らず、いきがることもしない。全てが自然体だ。どんな境遇に置かれても腐らず、努力をすることを止めない。しかも楽しそうだ。涼子はそんな孝をとても美しい人だと思った。二人は日が暮れてもその公園でずっと話し続けた。
帰宅して母にそのことを話すと、母は顔色を変えて怒りだした。
「3高の方でとお願いしたのに! お断りします」
紹介者からは勤務先と「優秀な建築士で稀に見る好青年」であることしか聞いていなかったという。
涼子は自分で断ると言って母を説得し、翌週も孝に会いに出かけた。今度はデニムを穿いて。
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