従来の典型的な日本の家庭では、父親が仕事をし収入を得ることで家族を養い、母親が子育てを担ってきた。だが、令和の現代その構図は大きく変化し、家族のあり方は千差万別となっている。
今回は、家族と離れて夢を追いかける母親と、それを応援する夫婦に注目してみよう。
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
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織田圭吾(仮名・35歳)と冴子(仮名・34歳)は3年前に子連れ再婚。当時圭吾には5歳の息子、若くして結婚した冴子には7歳の息子と5歳の娘がいた。翌年には圭吾と冴子の間にも息子が誕生し、全部で4人の子供と夫婦の6人家族になった。
冴子は会社に勤める元夫から度重なるDVを受けたことで離婚を決意。子供の親権は冴子が持つことになった。その後友人のホームパーティで圭吾と知り合う。圭吾は親が設立した造園業の二代目として仕事をしていた。
浪費癖が激しい前妻とは金銭トラブルが原因で離婚、冴子とは互いにバツイチ同士で意気投合し結婚することに。子供たちも新たな兄弟ができたと大喜びで、毎日の生活は常に賑やかなものになった。
しかし、若くして結婚した冴子には夢があった。それは「女優になる」という夢。
学生時代に演劇部に所属し、インディーズではあるが主演した短編映画が高く評価されたこともあった。芸能事務所も紹介してもらい、これからという時に、当時つきあっていた元夫との間に妊娠が発覚。授かった命を大切にしたいと、そのまま結婚して家庭に入り夢を追うことを諦めたのだ。
二人目を授かったのちに、DV夫と離婚。地方の実家へ戻って子供を育てながらも「もう一度夢に挑戦したい、自分を試したい……」そんな思いを冴子は心に秘めていた。
動き出す決意
©︎getty images
圭吾と再婚し、新たなる命が誕生して1年。冴子は夢を諦めきれずに悶々とする日々を送っていた。子供がいてもどうしても女優になりたい、その一念は日に日に募り、ついに圭吾に相談した。
「パパ、私どうしても女優になりたいの。端役でもなんでもいいの、もう一度挑戦したい。わがままなのは重々わかってる……。でも今じゃなきゃもう挑戦できないし、一生後悔するのも嫌なの……」
(女優? なに言ってるの? 今さら。子供たちの母親だろ? そんな現実味のない夢物語追いかけてどうするんだよ!)
呆れた顔でこんな台詞が投げつけられるだろう、そう冴子は覚悟していたが、圭吾の返事は意外なものだった。
「そういえば学生時代に短編映画で主演してたよな。実はあの映画観た時、冴子って才能あるなって感じてたんだ。まあ、心の中では、いつかもう一度女優やりたいって言い出すときが来るんじゃないかと、ちょっと思っていたんだよね。いいんじゃない? チャレンジしてみたら? 子育ては俺がするし」
「え!? 本当に? いいの?」
圭吾は「どうせすぐに諦めるだろう」と、半ば育児の息抜き程度の感覚で、冴子の女優への道に同意した。
【後編】はこちら⇒「女優になりたい!」東京で夢を追いかける母と、地方で4人の子を育てる父
Text:女の事件簿調査チーム
「酸いも甘いも噛み分けてきた、経験豊富な敏腕女性ライターチーム。公私にわたる豊富な人脈から、ごくありふれた日常の水面下に潜む、女たちのさまざまな事件をあぶり出します。