会ってすぐ伝えるべきだとわかっていたが言い出せない。なぜなら川辺の遊歩道を歩いているだけでとても楽しくて、時間を止めたいほど幸せに満ちていたからだ。
ベンチに座ると孝はお茶のペットボトルを涼子に「はい」といつもの人懐っこい笑顔で渡してくれた。涼子はなぜだか涙が込み上げてきた。
「趣味は何?」
「自転車」
ママチャリで川辺をどこまでも走るのが好きだと孝は恥ずかしそうに笑った。次はサイクリングに一緒に行こうと誘われ、涼子はとうとう観念した。
「実はもう会えないんです」
涼子の説明を孝は黙って聞いていた。涼子はどんな言葉が返ってくるのか怖かった。「何様だ?」とさすがの孝も怒るかもしれない。
孝は大きなため息を吐くと「おかしいと思ったんだ」と言って目を伏せた。
「ごめんなさい。大したことのない女が何様って感じですよね」
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