脱いで欲しいだけの人もいれば、とにかく微笑んでカメラを見つめて欲しいだけの客もいた。授乳を経験した胸をセクシーだと褒め続ける客もいる。そんなことを言ってくれる人がいるんだ……、気がつけば、もらえるお金のことなど考えなくなり、麻里絵は趣味のようにログインしていた。客と他愛もないことを話している瞬間だけが、自分にとっての「社会」のように感じられていた。
アダルトチャットを始めて、まもなく半年が経とうとしている。
相変わらず夫は麻里絵の仕事に気がついていないようだし、息子も何も気がついていない。それどころか夫からは「最近、明るくなって優しくなったね。綺麗になった気がする」という言葉までもらい、麻里絵は影で笑いが止まらない。
「そうね、あなたのお給料で新しい化粧品を使っているからかも。いつもありがとうね」
夫であるあなたのことは、世界で一番愛している。今後も裏切る気はない。それでもあなた以外の居場所もないと、私は息が詰まって死んでしまいそうになる。
そう思いながら麻里絵は今日も、チャットをオンラインにする。確定申告なんかでばれない金額までは、もう少しだけ稼がせて、と願いながら。
やっと見つけたこの居場所で、もう少しだけ褒められていたい……と求めながら。
Text:女の事件簿調査チーム
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