思えば、常に流されに流されてきた人生だった。
できちゃった婚であることは不本意だったし、本当は地元である大好きな千葉から離れたくはなかったのに、気がつけば夫に誘導されるかのように東京で専業主婦をやっている自分に気がつく。
確かに今は幸せだ、だけどこれが本当に私の目指していた人生だったのだろうか?
そう思いながら、麻里絵は下着を脱いでいく自分の手を止められなくなっていた。
©Getty Images
気がつけば最後は、画面越しとはいえ、男の前で裸になっている。擬似的とはいえ、自分で触ってみて、という指示通りに指を動かしてしまっている。
タナカは最初から親切な客ではなかった、ただただ下心しかない客だった。それでも、私を相手に1時間も通話して、私という1人の人間に興味を持ってくれた。そのことに、なんだか閉ざされていた心が軽くなったように感じてしまった。
「エリちゃん、本当にありがとう。必ずまた会話しにくるからね」
「こちらこそ、ありがとうございます。たどたどしくて、申し訳なかったです」
タナカとの通話が切れると、通話時間1時間16分の文字が画面に残った。
すかさず、連携しているらしいスカウトから連絡が来る。
「いかがでしたか? この通話で、6000円ちょっとのお給料になるので振り込みますね」
これで、6000円? 画面越しに話を聞いてもらっただけで、服を脱いだだけで?
©Getty Images
息子のおもちゃが転がるリビングで、麻里絵はテレビをつけてワイドショーを見つめた。ワイドショーの内容は、まったく頭に入ってこなかった。
それからは、平日の朝から夕方まで、毎日アダルトチャットにログインするようになっていた。また来るねと言ってくれたタナカにはもう会うことはなかったけれど、さまざまなお客さんに接することができた。
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