女性経験のない男が、ビジネスで突然大成功を収めた時。女慣れしていないのをいいことに、悪い女に騙されてしまう……。
映画や漫画の世界でよくある話。でも現実の世界の場合では、そう簡単な話で終わらないというのもまた事実。
事実は小説よりも奇なり。女に不慣れなまま成功した男と、そんな男と出逢ってしまった女に何が起こったか?
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
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「上場、おめでとうございます!」
証券取引所の鐘の音が鳴り響く中、本日の主役である男・澤田(仮名)は慣れないスーツに身を包んでにっこりと微笑む。この日のために妻が選んでくれたスーツ。ひとつの夢が叶ったこの瞬間、男はもうひとつ、別の覚悟を決めていた。
さあ、家で待つ妻のもとへ急いで帰ろう……。舞香のもとへ。
舞香(仮名)は、大学時代からいわゆるキラキラ系女子大生として地元の関西ではちょっと名の知れた存在だった。女子大生レポーターとして活躍し、テレビ出演はもちろん、その長身を活かして読者モデルとして雑誌に出ることもあった。
おかげで誰もが憧れる、IT企業の広報として東京で就職。しかし、初めての東京は、何もかもが関西とは違うと思わされる日々だった。
ただ華やかであればよかった女子大生の頃とは違い、毎日残業をして資料を作る新人社員の日々。手取りは想像していたほどではない。身体は鉛のように重く、疲れはなかなか取れない。想像していた東京暮らしとは全く違う。
関西に残してきた、遠距離恋愛の彼氏とは連絡も途切れ気味。学生時代の友人も東京にはほとんどいない。
……ああ、いっそ関西に帰ろっかな……。
そんなある日、舞香は、ふと「お一人さま専門相席屋」と書かれた店を見つけた。
お腹は空いているし、お酒も飲みたい。さらに「女性無料!」の文字。誰かと話したい、どうせならチヤホヤされたい。舞香は何かに導かれるように入店した。
入店した舞香は、猫背でぽっちゃりとした男と相席することになった。 年齢は同年代っぽいが、フレームの少し歪んだメガネ、半袖のTシャツなのに暑そうで汗っかき。どう見ても不器用そうな印象だ。関西時代の舞香であれば、きっと目を合わせることもなかっただろう。
しかし、就職してからエンジニアをはじめ、ややオタクっぽい?と感じる男性とも会話する機会が増えていた舞香にとっては、今となってはやや親近感すら感じるタイプであった。そのため、気取らず肩の力を抜いて話すことができた。
「澤田さんも22歳なんですね。職場、この辺ですか?」
「ええ……」
舞香がサービス精神で質問を続けても、話題が途切れそうになる。
「……あの僕、女の人と話すの苦手で……すいません。しかも舞香さん、モデルさんみたいに美人だから」
「あはは。いえいえ、うちの会社にも澤田さんみたいなエンジニアさんはたくさんいますし。むしろ親近感がわいてきますよ」
「舞香さんの会社にはエンジニアさんがいるんですか。もしかしてIT系ですか?」
その瞬間、澤田が初めて舞香と目を合わせた。ああ、この人は話題さえ合えば話せるんだ。目が合うんだ。舞香は驚いた。眼鏡の奥に見える澤田の瞳は、少年のように輝いている。コンタクトにしたら案外悪くなさそうな顔立ちだ。
その後も会話は続き、澤田は実は某IT企業の創業者で社長であることを打ち明けた。でも、周囲にいるのはキラキラとした起業家ばかりで引け目を感じていること。舞香はその気持ちに思わず、自分を重ねた。
「ねえ、澤田さん。どこかホテルにでも行きません?」
相席居酒屋を出てすぐに、酒臭いふたりの唇が重なる。道を曲がったすぐはラブホテル街。ふたりはもつれ込むように、一番近いホテルに入った。
翌朝、帰り自宅をしている舞香に澤田が話しかける。
「舞香さん、結婚を前提に付き合いませんか。僕の会社は実はもうすぐ上場しそうなんです。だからお金には苦労させません」
「えっ? ……突然すぎない(笑)?」
Text:女の事件簿調査チーム