——いさむさんは、どんな気持ちで、これを書いていたんだろうか? 本当に、これを望んでいたんだろうか?——
そう思って、いさむさんの顔を除くと、彼はただ、無表情で目の前に広げられた書類を見つめていた。
こうして何事もなく、依頼者が父親に書き換えさせた遺言書は、晴れて「公正証書遺言書」となった。
後日、依頼者が帰国し、面談することになった。
「これで、一安心です。弟は私が大学時代に留学していたことを棚に上げて遺言書を……」
若い外国人の男性を高級車の中に待たせ、早口で話す依頼者の言葉が、全く耳に入ってこない。
一見素朴で、男性受けしそうな可憐な容姿と、発言とのギャップにも違和感を覚えた。
——こうしている間も、いさむさんは、たった一人で観葉植物に話しかけているのだろうか?——
そんなことを想いながら、私は、公証役場からの帰りの車内で、夕暮れ時の景色を窓から眺めながら言った、いさむさんの言葉を思い出していた。
「見えるものすべてが、『私はここにいますよ』って、言ってるみたいですね。」
TEXT:探偵 こころたまき
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