公証役場のある街に着くまで、とにかく、色々話しかけ続け、その合間に、公証人への応対の練習をすることにした。
「いさむさんは、若い頃はどのようなお仕事をされていたんですか?」
「海の向こうに、石油を採掘する基地があったんです。私はね、そこで働いていたんです。」
「石油を採掘するお仕事ですか?」
「私は、眺める役でした。」
「眺める?」
「私は監督する方の仕事でした。来る日も来る日も、石油を採掘する男たちを眺めていたんです」
「いさむさんは、偉かったのですね」
「いいえ。偉いのは、汗をかきながら働く方です。私はいつもうらやましかったですよ」
「そうなんですか?」
「はい。汗をかいて働く男たちが眩しかったですよ。海に沈んでいく夕日と同じくらいに。」
他の人が言えば気障っぽく聞こえるようなセリフも、何故か、いさむさんが言うと、詩を朗読しているように聞こえるのが不思議だった。
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