目的の公証役場のある町について、まず、いさむさんと我々の3人で昼食を摂った。小さな食堂の定食を、いさむさんは、きれいに平らげた。
「すごい! 完食ですね。」
いさむさんに、そう言うと、
「たくさん練習しましたからね。」
と、照れくさそうに言った。
公証役場に着くと、待合室で順番を待っている間に、いさむさんと、最後の練習をする。
手続きが始まり、いよいよ、練習の成果を発揮しなければならなかった。
だが、我々の心配をよそに、練習でも、本番でも、いさむさんは、言うべきことを一度も間違えることはなかった。
次に、公証人が新しい遺言書を読み上げる。
そこには、弟が会社を設立する際に、実家から援助を受けたこと、国立大学に通った姉よりも、私大に行った弟の方が、学費を余分に払ってもらっていたこと等、依頼者が、自分のほうが弟よりも多くの財産を相続すべき理由が延々と書かれていたが、どれも、ただの姉弟の痴話喧嘩にしか感じられない内容だった。
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