「なんだか、どう言う顔で会えばいいかわからなくなってしまったんです。すぐに彼から今日の朝、大丈夫でしたか? ってLINEがきました。逃げ回っているわけにはいかないと観念し、翌週の水曜日美術館にいく約束をしました。それとそれまでは朝は別々に行きましょうと返信しました。実際問題、私の方もこの時点で彼のことが気になっていたし、正直に言えば好きという感情が生まれていたと思います」
灯里は、水曜日が待ち遠しかった。こんなキュンとする気持ちは、もう何年も忘れていた感情だ。
「何を着ていこうとか考えたりしてね。馬鹿ですよね、こんなおばさんが」
そして水曜日がやってきた。2人は美術館で待ち合わせをして、前回同様、じっくりとお互いのペースで展示を見て回ったあと、喫茶店に入り、向かい合ってコーヒーを飲んだ。
「芸術的な感性が合うんですよね、たぶん。だから話も盛り上がりました。でも今日の本題がそれでないことはお互いに良くわかっていました。それで私の方から切り出したんです。私もあなたが好きだけど、お付き合いすることとか、体の関係を持つことはできないとはっきり言いました」
すると彼は、その答えがわかっていたというような顔をして、にっこりと笑顔を向けたという。落胆されるかと思っていた灯里は、拍子抜けした。
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