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LIFESTYLE 女たちの事件簿

「妊娠が証明できただけ、あなたはまだマシ」35歳、主婦を泣かせた「善意のマタハラ」の苛烈。

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「夫は抱き締めてくれました。彼も泣いてたのかな。その日から起きたことの中で覚えていることって凄く少ないんです。なんだか記憶がずっとあやふやで。それで、数日後処置の日を予約してあったのですが、私、諦めきれないというか、信じたくなくて、流産を知らされた翌日にもまた病院に行ってしまったんです。呼ばれてもいないのに。」

予約を取っていなかったので、順番は最後になりますと言われ、千春は最後の患者が診察を終えるまで待っていた。病院の待合室にはお腹の大きな人が何人もおり、その姿を見るのがつらくて、体に力を入れたままずっと下を向いていたのだという。

©Getty Images

「まだほとんどお腹も膨らんでいないのに、嬉しくてマタニティ服を着ていた昨日までの自分が滑稽な気がしました。あと、その病院の待合室で流れていたBGMがオルゴール調のJ-POPだったんですが、私、それからオルゴールの音が嫌いになっちゃって。」

ようやく診察の順番が来て前日診断をした医師と対面すると、千春は本当に流産なのかもう一度確認してほしいと頼んだ。まだ赤ちゃんは小さく、見落としがあった可能性はないのかと。

「すると、医師はプライドを傷つけられたような表情になりました。それで機嫌を損ねてしまったのか、よその病院で診てもらってもいいんじゃないかと突き放すように言われたので、『すみません、失礼なことを言って。でも、信じたくなくて……。』と正直に言ったんです」

それまでデスクのパソコンばかり見ていた医師は、千春の話には返事をせず、椅子を回してようやく千春と向かい合うと、こう言ったのだという。

「『納得がいかないなら、別に処置しないまま、亡くなった子をそのままにしておいたって構わないんですよ。』と言われました。しかし、自然に流れず処置が遅れて次の妊娠に障ったら、余計に困るのはあなたなんです、とも。」

話は理解できたが、ナイーブになっていた千春にとっては、医師の言い方はひどく冷たく感じられた。返す言葉もなくうなだれている千春に手を差し伸べてくれたのは、またしても看護師だった。

「看護師さんと話をしました。心拍が確認できなかったこともそうだし、妊娠週に対して赤ちゃんが育っていないことなど根拠が揃っているのだと。流産して諦められずに苦しい思いをする人は多いから、あなたの行動は全然おかしくないけど、今回はどうか分かってほしい、ごめんねと。」

千春は泣く泣く再度診察してもらうことを断念し、帰宅の途についた。

後日、処置の予約日には、仕事で同行できない夫に送り出されて1人で病院に向かったという。

「助産院の先生も来てくれて、待機中の私の手を握りながら『つらかったね。でも、また赤ちゃんできるから大丈夫よ』と、励ましてくれました。ありがたかったですが、涙しか出なくて。すべての慰めも励ましも、私には虚ろに響きましたね。」



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