厚生労働省によると、2022年の育児休業に関する調査において、男性の育休取得率は13.97%という低水準ながら、過去最高を記録したことがわかった。
一方で「厚生労働省イクメンプロジェクト」が発表した「男性育休推進企業実態調査2022」の調査結果によれば、調査対象となっている企業141社では、男性育休の取得率が76.9%、平均取得日数が41日という「優秀」ぶりが浮彫となった。やっている所はかなりやっている、という現状が見て取れる対比ではある。
このイクメンプロジェクトの調査報告の最後には、取得率向上だけでなく、働き方改革などによって取得日数を伸ばす必要があると提言されている。産後うつによる自殺を予防するために、男性育休の日数を増やすべきなのだと。
「産後うつを予防するには、1日最低7時間の睡眠時間を取れる生活が重要」なのであり、それを確保するには男性の長期休業が効果的ということなのか。はたして男性の育休日数を一様に増やすことで、産後女性の幅広い悩みを十分に軽減することはできるのか。
また、岸田首相は先日、少子化への対策として、さらなる男性育休拡大施策として、「目標2025年度50%、30年度85%」という数値も持ち出した。
しかし、夫の育休を強く望む人もいれば、夫の育休が長ければ長いほど苦悩し疲弊していく産後女性もいる。それが現実だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今回話を聞いた緑川優美(仮名)は、2人目を出産してまもない35歳の会社員だ。彼女は育児休業中だが、同じく育休中の夫には、すぐにでも復職してほしいと望んでいる。
「男性育休がダメとはもちろん思っていなくて、むしろ協力的な夫さんが育休を取ってくれるなら、これほど心強いことはないと思うんです。今は会社側も育休を取らせる義務がありますしね」
男性育休自体には肯定派の優美だが、いざ個人レベルの話になると考え方は違う。彼女は、自分の夫が育休を半年も取得したことを、申請当初から不安に思っていたのだそう。
「うちの夫はもともと残業が多いだけじゃなくて家事自体が苦手で、ほとんど家事に参加してこなかった人です。1人目の出産は5年前。その頃はまだ夫の会社で育休を取っている人はほとんどいない状態でした。だから、育休なんて実際問題無理だよねと夫が話していると、私は内心『よしよし、それでいい』と思っていたんです。でも、1人目出産後、夫の会社は急に育休に力を入れ出しました」
義務化の影響もあって、男性育休がスタンダードになってきたことは優美も重々実感している。必要性も理解しているつもりだ。しかし、制度の普及・定着ありきで、中身が伴っていない実態を疑問視してもいる。
「会社の規模によっては男性の育休取得率を公表することが近々義務化されるとかで、会社も頑張ってるみたいですね。採用でもこういう取り組みが影響するんでしょうし。ただ、現状ではデータを取って数字ばかりを追っているように思えます。実際に有意義な育休になってるかどうかは完全に別。もう少し柔軟というか斬新な制度にはできないものなのかな」
優美の夫の会社は、男性育休に対してかなり積極的になっており、平均的な取得日数をはるかに上回る期間、遠慮なく育休を取ることが可能なのだという。
「それで、私に相談もなく、育休半年取れたよ、と報告してきました。思わず『はあ?』と不快感丸出しにしてしまいましたよ。家事が苦手な夫が半年間家にいるとか、あり得ません。本人はこれでワンオペ回避だよとか言っていたけど、私からすれば、長期休暇が取れて顔がほころんでるという印象しかなかったです」
現在、すでに育休に入って1か月近くになる夫は、予想どおりただ単に妻のストレスの原因になってしまっているのだとか。