「由美佳さんは私に対して、『梨華さんは何かコンプレックスに感じていることがあるんじゃないの?』と聞いてきたんです。よくあるのは学歴コンプレックスとかだけど、と前置きして、彼女は私の学歴を聞いてきました。恐らく、ずっとそれを聞きたかったんでしょうね」
由美佳は「失礼だけど、どこの大学出身?……あ、もしかして高校?」と聞いてきたのだという。
「その時はなんでこんな話題になるのかなって不思議でしたが、私は普通に自分の出身大学を言いました。彼女はその名称を聞いたとたん、急に顔をこわばらせたんです。第一志望に落ちて入った大学だったので、コンプレックスとまではいかないけど挫折感はある、と答えましたね。でも、自己否定まではないわと。そこで会話は終わってしまいました」
数日後、同級生の他の母親と立ち話をしていると、その人から妙な話を聞いた。言うべきかどうか迷ったんだけど、とその人は話を切り出した。
「由美佳さんが、陰で私を悪く言っているという話でした。私がマウンティング好きで、聞いてもいないのに出身大学を言って聞かせてくると。私、唖然としてしまいましたね。教えてくれた方には『聞かれたから答えただけなんです』と要らぬ弁解をしちゃいました(笑)。
まあ、きっと彼女自身が学歴に対して何かあるのかもしれません。これが、友人が言ってた実験の結果なんだと思いました。学歴が由美佳さんのコンプレックスの一つなのかもしれませんね」
次に会った時、由美佳はいつもと変わらない落ち着いた態度だったという。陰口を言ってターゲットを貶めたいが、誰とも表立った争いは起こしたくなさそうだ、と梨華は感じた。
「私、結構腹が立ってたんですが、まあ同じ土俵に立ちたくないので、陰口言わないでねとか大人げないことを言うのはやめておいたんです。でも、遅かれ早かれダメになったということなんでしょう。私、ある日突然ブチッと切れたんです。呆気ない幕切れでした」