気付けば2人でホテルにいた。
「やっちゃったね」
21歳の綾子は恥ずかしそうに笑う。航平は、綾子を後ろから抱きしめて付き合おうと言った。
「いいよ」
大学3年生の綾子と大学4年生の航平。都内の私立大学に通う二人はあっという間に同棲しはじめた。
ワールドカップを見ながら酒を飲み、体を重ねる。綾子の初々しい手料理に、休日の雑貨屋巡り。バイトと講義の間にカフェで待ち合わせをして、カフェオレを飲む。好きなアーティストに嫌いな映画、はまった漫画に気になるドラマ。寸暇を惜しむように話をした。
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©︎gettyimages
「実は私、サッカーのことよく知らないんだよ」
綾子がおずおずと打ち上げると、航平も笑いながら答えた。
「俺もだよ(笑)。ワールドカップまではボランチとフォワードの区別もついていなかったし」
綾子と航平の会話は途切れることなく、二人の距離は急速に縮まった。
しかし、そんな小さな喜びに満ちた綾子と航平の生活は、航平の就職によって破壊された。
航平が務めた会社は今でいうブラック企業。朝7時に家を出て、帰宅するのは午前1時過ぎ。大学4年生の綾子は卒論に追われて、航平の追い込まれている状況に気を配る余裕はなかった。会話がなくなった二人の関係はもろくも崩れ去る。
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