「航平?」
2006年ワールドカップドイツ大会。日本がブラジルに大敗を喫して、意気消沈するスポーツバーで、再び綾子は航平に声をかけた。ビールを飲んでいた航平はむせてビールを吹き出す。
「めっちゃ偶然じゃない??」
たしかに偶然だった。ワールドカップには、日頃サッカーに興味を持たない日本人の足をスポーツバーに向かわせるエネルギーがある。
Yahoo! 配信用パラグラフ分割
©︎gettyimages
気付けば二人はホテルで抱き合っていた。
「またやっちゃったね」
綾子はあのときと同じように笑う。
「ねえ、俺たちまた付き合わない?」
転職して、仕事が楽しくてたまらないと語っていた航平の顔は大学時代と同じように輝いている。
「無理だよ」
綾子は唇を噛んだ。
「ねえ、それよりさ私たち、また次のワールドカップであの場所で会わない? 連絡先も交換しないの。それで日本のグループリーグの初戦にあの店で待ち合わせようよ」
薄暗いホテルの室内では、航平は綾子の作り笑いに気付けなかった。
後編へ続く。
Text:FORZA STYLE
RANKING
2
4
1
2
4
5