出発日当日。
成田空港出発ロビーは、コロナ前と比較しても遜色ないくらいの旅行客で溢れていた。その人混みの中で愛理は、幸せの絶頂を感じていた。
もうすぐたか君が来る。たった七日間の旅だけど、この七日間だけは日本を忘れて「たか君」に夢中になろう。
出発2時間前。約束の時間が過ぎても、彼は現れない。
少し気になって「たか君」へ電話をしてみた愛理は、絶望の淵に突き落とされることになる。
『おかけになった電話番号は現在使われておりません』
震える手でLINEを打つも、既読にならない。「たか君」が持ってきた旅程表に書かれている電話番号へかけてみたが、同様のアナウンスが鳴った。疑念が確信に変わりつつある。
©︎gettyimages
出発1時間前。愛理はそれでも、一縷の望みをかけてその場で待っている。
出発の45分前。とうとう、搭乗締め切りのアナウンスがフロア全体に響き渡った。
愛理はこの時点で、ようやく認めざるを得なくなった。
「たか君」の優しさ、甘かった情事の意味、そして、失った90万円とズタズタにされたプライドのことを。
Text:FORZA STYLE
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