——そして2週間後、引っ越しの日。
段ボールに荷物も全て詰めて、蘭は夫と息子と、引っ越し業者の到着を待っていた。息子は嬉しそうに、「まだかな〜」と元気そうに走り回っている。
「おはようございます、今日はよろしくお願いします!」
そこに現れた引っ越し業者数名の男性スタッフたち——その代表の涼介は、何も知らないような顔をして挨拶をしていた。蘭の夫も、息子も、何にも気がついていない。蘭も何事もなかったように、涼しげな顔で挨拶を済ませる。
あれからこの2週間、引っ越すまでの間に蘭は涼介と何度も逢瀬を重ねた。
引っ越してしまうまでのわずかな、残り少ないこの時間の中で、期間限定と分かっている中で、何度も何度も身体を重ねてはふたりは互いに溺れていった。
そして蘭は「もっといい引っ越し業者を見つけたから、キャンセル料を払ってもさらに安くなるから」と夫に堂々と嘘をついて、お礼と言わんばかりに涼介に引っ越しを任せることにしたのだった。
このまま荷物を回収してもらい、私たち家族は新幹線で関西へと向かう。業者はトラックで一晩かけて関西へと向かうらしい。
そして明日には新居で、再び合流する手筈となっている。
期間限定だったはずの逢瀬を、少しでも引き伸ばしたい蘭は、明日の夜に関西でどうにかふたりで会う時間を考えている。
ふたりは他の誰にも分からない意味深な目線を交わした。
「じゃあ、引っ越しのほう始めさせていただきます。よろしくお願いいたします!」
涼介の爽やかでハキハキとした声がリビングに響き渡った…。
Text:女の事件簿調査チーム
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