平日の昼間だったため、夫は会社、息子は学校に行っている。相手がくる直前になり、ふと考えてみれば女1人の家に男の人が来ることに気づいた蘭は少し警戒心を持っていたが、いざ相手を目の前にしてみると、瞬時に警戒する必要のなさそうな人だと感じたのだった。
「こんにちは、リョウです。本名は涼介といいます。今日はよろしくお願いします!」
そうハキハキと挨拶する涼介は、20代前半といったところか。ふと目があった際の切長な目つきが、どこか好みの若い歌舞伎俳優を思わせるようで、蘭は少し緊張していた。
「はい、こちらこそです。蘭と申します。洗濯機はこっちで、残りの家具家電はこっちです」
©Getty Images
作業服でありながらも爽やかでテキパキと作業をするため、蘭は安心して作業を眺めていた。ものの15分ほどで、涼介は譲渡予定の家具家電を全てマンションの廊下に出し切り、あっという間に締めの挨拶をする。
「残りは自分でやりますので、蘭さんはもう部屋でくつろいでください。こちらで失礼致します」
「え、早い! 本当に助かりました、ありがとうございます。お礼によければ……お時間あれば、お茶でも飲んでいきませんか? 引っ越し前で困っているお菓子もあるので」
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