それからというもの、奈月が夫とシェアしている自分の予定を書き込むカレンダーには、度々「強制出社」という予定が入り込むようになった。リビングで遭遇した際に、夫が奈月に聞く。
「なんか奈月、最近は出社が少しずつ強制になってきてるんだね」
奈月はドキっと跳ねた心をぐっと冷静になるよう、息を飲み込んで落ち着けた。冷静に、冷静に。
「そうなんだよね、コロナ怖いからあんまり行きたくないんだけどさ、上司が行くとなると断れないし」
「まあな、直接顔を見ないとわからないこともあるしな」
「そうそう。テレビ会議では進まないことも、いろいろと顔を合わせて話すと、一気に解決したり、物事って進むじゃない?」
「わかるぜ、そういうのってあるよな。俺もたまには家でひとりでごろごろできるから幸せだよ、書斎使い続けられるし、こっそりカップラーメン食べたりしてるし」
「あはは、こっそりって隠しきれてないじゃん。まあ、いつも最近ずっと2人きりだったもんね。ならよかったよ、たまにはリフレッシュも大事よね」
そういうと、夫は背中を向けてまた書斎へと消えた。奈月は胸を撫で下ろす。
スマホのメッセージアプリを開き、パスワードを打ち込む。
山崎からのメッセージだけは、不意にスマホに表示されないように通知を切っている。だからわざわざ、こうやって確認しないといけないのだけど、それもまた今の奈月には楽しい時間になっている。
「奈月、明日は会える?」
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