「もちろんです、今日は久々に外の空気が吸えてこちらも嬉しいです」
「あのさ」
山崎が奈月の腕を突然つかんだ。瞬時に反応できなかった奈月に、山崎が言葉を畳み掛ける。
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「嫌だったら、はっきり言って欲しい。これからも下田さんとはいい関係を続けたいから」
「……はい?」
「例えばだけど、例えば。このままホテルに行こうと言ったら、どう思う?」
どう思う、とは。それはつまり、えっと。
「それは、その」
「そういうことだよ、もちろん、嫌ならすぐに手を離すよ」
奈月は瞬時に、入社当時のことをさらに思い出した。こんな爽やかで体育会系の上司かと驚いたこと、そしてこの人と付き合えたらいいのになと実は思っていたこと、でもすでに結婚していると聞いて心に蓋をしていたこと……。
ぶわっと火照る感覚が、身体の奥で貫かれる。耳までかっと熱くなる。
「山崎さん。私、人と話すのも本当に久々だし、夫ともそういうことをずっとしていないので、その、本当にうまくできるかどうかっていうか……」
「大丈夫、できるよ。俺の部下だろ、大丈夫」
山崎はそう言うと、いつも以上に爽やかな笑顔で奈月の腕を引き寄せた。
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