ランチ当日、山崎は「よ!」と手を上げながら私服で現れた。
当たり前といえば当たり前、だけれども会社内でスーツ姿しか見たことがなかった奈月にとっては新鮮で、なんだか山崎が別人のように感じられたのだった。
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「なんか山崎さん、私服だと別人のように見えますね」
「よく言われる、スーツ補正が外れると老けて見えるって」
「いやいや、そういう意味じゃないですよ。しかし久々に夫以外の人と会うので、なんだか新鮮な気持ちです」
「僕もだよ、妻からは危ないから出歩かないでって言われてるんだけど、今日は久々の強制出社だから仕方ないって言い訳しちゃってさ」
「あはは、私もです。夫には出社だからって伝えたら、やっぱりあっちも息苦しかったんでしょうね、こちらも久々に家でのびのびするよって言われちゃいました」
「だよな〜。みんな、息苦しいんだよな」
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一応安全確保を、ということで予約していたイタリアンの屋外テラス席で、奈月は久々にマスクを外して山崎と他愛もない会話、ときどき部署の話、会社への不満、などを交えて喋り続けた。食後のコーヒーを飲みながら、山崎が腕時計に目を落とす。
「お、あっという間に1時間たっちゃったね、そろそろお店出ようか」
「はい、今日は本当にご馳走様です!」
「はは、僕におごられることしっかり忘れてないね。じゃあ、お返しにもう一軒だけ付き合ってもらっちゃおうかな」
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