LIFESTYLE COLUMN

【ドクトルの書生が行く英蘭客船の旅】vol.3
腹ペコで臨むのが鉄則。クイーン・エリザベスのアフタヌーン・ティーが教えてくれた、本当の豊かさとは?

下船後は近郊の街を散策。大聖堂の街、ウィンチェスターへ

10月10日の朝、船は出発したのと同じMayflower Cruise Terminalに到着、左舷から接岸しました。下船時間はあらかじめ決められており、私は9時に下船だったのでリドで朝食をとることに。

ペイストリーを少しいただきました。お世話になったこのレストランともお別れかと思うと寂しいですね。

自分の下船時間となりました。乗組員から感動的な見送りを受けながらタラップを降りて行きます。丁寧で手厚く、慇懃無礼にならない血の通ったサービスを提供してくれた彼らにお礼を言っていくごとに、自分はクイーン・エリザベスという小さなイギリスに乗り込んでいたのだなと感じるのでした。タラップを降りきると旅を終え、満足そうな表情を浮かべる乗客の方々。4泊5日を同じ船の上で過ごしたファミリーは、それぞれの属するところへ帰っていくのです。

すっかり旅を終えた気になっていた私ですが、この度はフライ&クルーズ、日本へ帰るまでが旅です。日本へのフライトは当日の夜7時。ロンドンへ戻ってもよかったのですが、せっかく西の方まで来ているのだし、このまま現実へ戻っていくのが怖くも感じられ、サウサンプトン付近を散策することにしました。行き先としては、サウサンプトンと並ぶ港町ポーツマス、大聖堂の街ウィンチェスター、ヴィクトリア女王も愛したワイト島などが考えられます。

サウサンプトンを離れ、私が訪れたのはハンプシャー州の州都ウィンチェスター。イングランドでは最大級のウィンチェスター大聖堂をはじめ、ウィンチェスター・グレートホールなどの歴史的建造物を多く抱え、作家ジェーン・オースティンがその晩年を過ごし、『分別と多感』『高慢と偏見』『エマ』などを執筆した街として知られています。ちなみに俳優コリン・ファースもウィンチェスターの出身です。

ちょうどお昼時なのでまずは腹ごしらえを! Wykeham Arms(ワイクハム・アームズ)というホテル併設のパブでパブフードをいただくことにしました。1755年創業、2018年には英国パブ・ベスト30に選ばれたそうで、食事への期待が高まります。

オーダーしたのはコテージ・パイ。牛挽き肉と玉ねぎなどを煮込んだものにマッシュポテトで蓋をし、チェダーチーズをトッピングしてオーブンで焼いたイギリス家庭料理です。牛肉をラム肉に変えチーズを外すとシェパーズ・パイ(羊飼いのパイ)になります。

私もイギリス在住時にレシピを習い、今でもたまに作ることがあるのですが、味付けの振れ幅が大きく家庭や店ごとのオリジナリティが出やすい料理です。ワイクハム・アームズのコテージ・パイはトマトピューレの味を強く感じ少しイタリア料理の代表格ラザニアに近い味わいで美味! 付け合わせのグリーンピースと人参のソテーは塩コショウの加減が完璧で、岩塩の旨味が素材を引き立てていました。

食後はもちろんティーを。イギリス人を気取るなら、朝でも夜でもイングリッシュ・ブレクファストティーを選ばなければなりません。濃く抽出された紅茶が入った大ぶりのティーポットが運ばれてきます。可愛らしい茶器は陶器の街ストーク・オン・トレントに工場を構えるバーレイ社のもの。日本でも人気の高いメーカーで、オーナーの趣味のよさを感じられます。スタッフもフレンドリーで、機会があればぜひまた立ち寄りたいパブでした。

その後はウィンチェスターのシンボル、大聖堂に向かいます。大聖堂の歴史を遡ると1079年に建設が始まり、1093年に完成したとされており、それまで使用されていたオールド・ミンスターを含めればその起源はなんと7世紀に! 大聖堂はヨーロッパのゴシック様式大聖堂の中でもっとも長い身廊と全長を誇っており、イングランド最大級と言われる所以となっています。

その昔は200キロ離れたカンタベリー大聖堂と繋ぐ巡礼路があり巡礼者で大いに賑わったこともあるこの街を、今も静かに見守っています。ちなみに先述のジェーン・オースティンもここに眠っています。船内のライブラリーで『分別と多感』を読んでいた私は下調べもせず当地でこの事実を知り、何か必然的な巡り合わせのように思えました。

荘厳な大聖堂を後にし、街をしばし散策すると地図に「Wildlife Reserve(自然保護区)」と街の北部に記されていました。元来、田舎道を歩くのが好きな私は残りの時間をここで過ごすことに。

「Winnall Moors Nature Reserve(ウィナル・ムーアズ自然保護区)」はイッチェン川の流れる湿地帯で野鳥や水生植物の楽園となっています。洋上の青に目が慣れていた私には木々の緑が新鮮に映り、嗅覚は潮の香りと草木の青臭い匂いの違いに戸惑います。船の上にいる間に自分の視覚や嗅覚が研ぎ澄まされていたことに気づきました。

木々の間を縫うように優しく吹く風を頬に感じながら、川に沿って湿地帯を進んでいくと、イッチェン川には白鳥の親子が戯れています。緑のカーテンに囲まれながらさらに進んで行くと、どこからか野鳥のさえずりが聞こえてきます。リスが気恥ずかしそうに急ぎ足で歩道を横切って行きます。

このまま歩き進めば、およそ1日では見て回れないほど大きな国立公園へと辿り着きます。それにしてもイギリスの原風景をウィンチェスターのような大きな街のすぐそばで垣間見られるということに羨ましさを禁じえません。イギリス人の自然への愛は並々ならぬものがあります。産業革命を巻き起こし、その甘い蜜を最大限享受しつつも、その過程で失われていくものにいち早く気づいたのも彼らでした。

サウサンプトン出身の画家ジョン・エヴァレット・ミレー(ミレイ)の代表作『オフィーリア』を連想させる景色に思わず驚嘆。もしかするとここがモデルなった可能性も?

旅の終わりをこのような驚きと感動とともに迎えることができて感無量です。自分の持っているセンサーをフル稼働した5日間、おかげさまで鈍っていた感受性が蘇った気がしました。現代人が見失ってしまっている「人間らしい生活」を思い出させてくれるという点に、クルーズの本質を見出した私がいました。航海中、親身にサポートしてくれたクイーン・エリザベス乗組員の皆さんにこの場を借りて最大級の感謝を述べさせて頂きます。

また、3回にわたってお付き合いいただいた読者の皆様にも感謝申し上げます。

忘れられない旅に私を連れていってくれたクイーン・エリザベスですが、オリンピックイヤーの来年、日本発着のクルーズを行います。日本海側をまわるクルーズや太平洋側をまわるルーズなどが予定されています。詳しくはキュナード社のウェブサイトをご覧ください。ぜひクイーン・エリザベスとキュナード・ラインの魅惑のクルーズを体感してみてくださいね!

【問い合わせ】
https://www.cunard.jp/

Text: Kohki Watanabe
Photo: Cunard & Kohki Watanabe



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