【前編まとめ】
近年、高校教育分野では文科省による「新しい評価基準」の推進が行われている。
試験の結果だけでなく、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的な学習への態度」の3要素を「観点別評価」として教員は生徒に付与しなければならなくなったのだ。
高校で数学を教えている理恵子さん(仮名)44歳や新任の生物教師真奈美さん(仮名)24歳は現場に大きな負担がかかっていると語る。
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24歳の真奈美さんは生物を高校生たちに教えている。
生物は高校で学ぶレベルでは何と言っても記憶することが多い。現象の名前や体液の名前など、覚えて答えられるかどうかは「知識・技能」となる。
「でもじゃあ、生物における「思考・判断・表現」ってなんだろうと思うと行き詰ってしまって……」
真奈美さんは、先輩教員にアドバイスを求めたそうだが、先輩教員たちもまだ、この導入されたばかりの「観点別評価」には戸惑っていてはかばかしい解答を得られなかったそうだ。
「『今まで通り試験をして、その点数を適当に「知識・技能」と「思考・判断・表現」に分けておけばいいんだと思うよ』とおっしゃる先生もいらっしゃいました。
そんな、適当な……とは思いましたけど、よくよく考えると、間違った考えではないのかもしれないと思うようになりました。
だって、定期考査の試験問題は、ただただ暗記しただけでは点数を取ることのできないような問題を工夫して作るのですもの。知識が定着した上で問題の内容を理解して、理解したことを採点者に分かるようにどんな風に表現するのかと言う力を試している。
そう考えると、どれが「知識・技能」だけを試している問題で、どれが「思考・判断・表現」だけを試している問題なのかなんて分けられないので、適当に分けても問題ないのかもと考えるようになってきました。考えすぎて、訳が分からなくなってしまったのかもしれませんけど……」
真奈美さんはそう言って苦笑した。
彼女のように真面目に観点別評価に取り組む教員たちはみんな頭を悩ませているし、評価をつけながらも「これでよいのだろうか?」という疑問にさいなまれている。
「もちろん生徒たちも、受け止め方に困っているみたいです。『どうすればいい評価をもらえるのか?』と真面目な子どもほど質問に来るのですが…」
「誰がそうしはじめたのかはわかりませんし、そうしていらっしゃらない先生方もたくさんいるのですけど、試験問題に「知識・技能問題」「思考・判断・表現問題」などと書いている試験が流行っているというか増えてきているというか……なんかそんな状況なのですけど、それがまた波紋を呼んでいて……」
真奈美さんの重い言葉はまだ続く。