「びっくりして、目が覚めました。夫も限界にきていたんだと思います。窓を割らんばかりに叩く千枝さんを中から2人で見ている姿は、本当に異常だったと思います」
夫と貴子は自分たちが壊れる前に千枝をなんとしてでも老人ホームに入れることを決意した。
「今は有料老人ホームに入っていますが、逢いに行く機会が減っていって、あっという間に寝たきりになり、私たちのことはほとんどわからない状態になってしまいました。これでよかったのか、本当にわかりません。でも、介護の末に親を殺してしまう、そんな事件をニュースで見るたびに怖くなります。他人事ではないんです、本当に」
貴子にも母親がいる。千枝の二の舞にならぬよう、彼女とは老後について夫を含めて、何度も何度も話をし、エンディングノートも書いてもらったという。
「元気な親がいつまでもいるというのは幻想です。彼らは私たちが歳を取るのと同じだけ、老いていきます。これだけ話をしていても実母と最終的にどうなるかわかりません。千枝さんには逢いに行く勇気も持てないまま、毎日が過ぎていく、そんな今日この頃です」
事情は各々あれど、年老いた親と年老いた子どもは増えていく一方だ。どのように人生を終わるのかを自身では決められない以上、誰かに委ねる必要がある。話しにくいことではあるが、最悪の事態にならぬよう皆が考えなければならないことなのかもしれない。
取材・文/悠木律
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