午後は各自自由に過ごすため、知沙子さんは夫とともに観光地やアウトレットショッピングモールなどへ出かける。
「この時間では唯一、旅気分を味わえるんですが、ホッとして楽しめるのはほんのわずかな間です。というのも、大体前日のこととか、義実家で過ごすこととかでストレスが溜まった私がぶつぶつ言い始めるので、ケンカになるんですね」
黙っていればいいとわかっている。でも、黙っていると了承していることになるようで、徐々に不愉快になってくるのだという。
「前回は生理で心身ともに少し不調だったせいもあって、2人になったとたん不満が爆発したんです。でもなるべく理性的に話をしなければいけないと思って、こう提案してみました。
『せめてあなたも夕ご飯の準備を手伝ったりして、これからの社会は女=ご飯の支度要員ではないんですよ、という考えを態度で表せばいいじゃん』って」
夫は、彼自身が日頃しばしば披露しているジェンダー観が引き合いに出されているのだということをすぐに察した。
「すると夫は、私が覗きたかったブランドショップの前に立ち止まって、『知沙子に足りないのは臨機応変さだ』と言い出しました。
『理屈はよくわかるが、田舎の年寄りにジェンダーなんて言っても通用しない。長らく固定された価値観を変えることは不可能なんだ』。『これからは変える、でもアップデートできない人たちはそっとしておくべきだ』と」
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