観光庁が実施したゴールデンウィークに関するアンケート調査(2019)において、ゴールデンウィーク期間の旅行でどこに宿泊したのかを質問したところ、「実家や親戚・友人の家」と答えた人が最も多く、調査対象のうち、実に45%がゴールデンウィークを身内などの家で過ごしたことがわかった。
しかし、この多数派の中には、必ずしもその宿泊先を自ら希望して選んでいない人も、大いに含まれているのかもしれない。
年に数度とない大型連休、しかもコロナ禍が一段落して初めてのゴールデンウィークをゆったりと、そして楽しく過ごしたいというシンプルな願い。それが叶わなかった人は、いったい日本中にどのくらいいるのだろうか。
今回話を聞いたのは、新倉知沙子さん(仮名)。夫婦で同じ企業に勤める会社員で、結婚して8年目になる。子どもは、目標までキャリアを重ねてから授かりたいと考え、夫婦でそのタイミングについて話し合う日々だという。
知沙子さんは、彼女の仕事に対する能力を高く評価し、家事を何でもこなしてくれる夫を日頃から尊敬している。しかし、義実家に帰ると夫の様子が変わることに違和感を覚えているという。
「そもそも、義実家に滞在する間のストレスで、ゴールデンウィークは休んだ気がしない」と、彼女は不満を漏らす。
「コロナ禍の前まで、なぜかゴールデンウィークは夫の実家で過ごすことが恒例になっていました。私の実家にはお盆休みに1泊するくらい。その辺りの休日の使い分けも、理由もなく何となく決まった感じです。
今年はコロナが少し落ち着いたので、以前の慣例どおりにゴールデンウイークには夫の実家に行きます。車で4時間かかるところに、渋滞に巻き込まれたりしながら6時間ほどかけて行って、ストレスしかない中で3泊も過ごすことになります。もう、今から憂鬱で」
コロナ前、ゴールデンウィークはできれば夫婦でのんびりしたいと、知沙子さんから夫に要求したことはあるという。しかし、夫には「年に何度も顔を見せられないんだ。1泊でいいから顔だけ見せに行こう」と説得されてきた。
「でも結局遠方なので、『1泊なんて疲れちゃうからダメ』とお義母さんたちに説き伏せられ、いつのまにか3泊が定着してしまったんです。義実家は本家と呼ばれています。私には本家の意味がわからないんですけど(笑)。それで、その本家であることを理由に、連休には家族・親戚がたくさん集まってきます」
道中にも楽しさはほとんどない。この先に待ち受けるストレスフルな日々を思うと気分が暗くなり、車中の会話もはずまず、これでもかというほど混雑する高速道路を走る車中は苦行そのものなのだそうだ。
コロナ禍はとてもつらい期間だったが、こうした人付き合いのストレスを感じずに済んだ点だけは「ケガの功名」だったと、知沙子さんは言う。
「コロナ前最後のゴールデンウィークに義実家へ行った時、たまたま生理2日目でした。道中、すぐトイレに寄った方がいい状況になってしまった時があったんですが、渋滞がひどくて……。
『一番近いサービスエリアに寄って』と夫に頼んだんです。でも、どうやら彼が寄りたかったのはその1つ向こうの大きなサービスエリアだったようなんです。凄く嫌な顔をされました。
その後ずっと不機嫌になって。男性にはわからないと思いますけど、生理2日目に女性がトイレに駆け込みたい時って、かなりピンチなんですよ」
実家へ帰るモードになると、夫は普段の彼とは違う人格を見せるようになる、と知沙子さんは感じている。コロナ禍前年のゴールデンウィーク帰省を回想しながら、彼女はこう続けた。
「いつもは穏やかでジェントルマンな夫なんですが、実家に帰るとなると、なぜだか実家向けの顔をし出すんです。オラオラとまではいかないけど、亭主関白風になるんですよ。都会に生きる意識の高いビジネスパーソンから、田舎の旧家の鈍感息子に変身する、みたいな感じです」
遅々として進まない高速道路の列からようやく解放され、何とか夫の実家に辿り着く。すると、家の中では、すでに到着していた親戚が、義母や義祖母に混じって料理をしていた。
知沙子さんは一息つく間もなく、「なあ、ばあちゃんが重たい鍋持ってるぞ」と夫から台所の手伝いを促されたという。