「義実家に帰るとなぜか『ちょっとくらい休ませてよ』とか『あなたがお手伝いしたらいいじゃない』とか言い返せなくなる独特の雰囲気に包まれるんです。
私も、かわいい嫁と思われたい、という変な心理になって唯々諾々と従ってしまって。そんなことを思う自分が本当に気持ち悪いんですけどね」
台所で夕食の準備を手伝っている間にも、夫の実家には続々と親戚が集まってくる。近所から来る人もいれば、知沙子さん夫婦のように遠方から訪れる家族もいる。女たちは一様にエプロンを着けて夕食の支度をし、男たちは先に酒宴を始めるのが慣例だ。
「うちの夫、職場ではジェンダー平等を凄く意識していて、上司などから褒められたりすることさえあるんですけど。実は、状況に応じてそういった意識をスイッチできてしまう男なんです」
結婚しているかとか、妊娠・出産の予定とか、現代の職場ではそんなことを他人に訊ねるのはご法度。特にコンプライアンス遵守を重んじる会社では常識中の常識となっている。
知沙子さんの夫には、他人の外見や私生活について何かを言う習慣がない。ハラスメントの加害者となり、キャリアに傷がつくのを恐れているため、普段から徹底しているのだ。
「でも、実家で私が親戚のおばさんたちから『子供はまだか』『いつ頃作るのか』とか聞かれまくってても、夫は知らん顔です。会社でそんな会話があったら一大事ですよね。
まあ、夫はその場その場の民度に合わせて態度を変えているということなんでしょうけど、ちょっと横から口を挟んで、助け舟を出してくれるくらいはできますよね」
男性陣から遅れること2時間ほどで、ようやく知沙子さんは夕食にありつく。
「未だに誰だかよくわからない”おばさん”とか”おねえさん”と一緒に苦手な料理のお手伝いをしてへとへとになっているので、食事し始めても全然リラックスできない。前日は連休前ということもあってガツガツ仕事をしていますから、余計こたえるんです」
夜が更け、宴もたけなわになってくると、酔っぱらいおじさんの相手にも手を焼くことになるという。
酔っぱらった親戚男性からのセクハラ、十人以上が入った後のお風呂、農作業の強制……。
☆義実家で知沙子さんが強いられたさらなる苦行は、次回詳報する☆
取材/文 中小林亜紀