「私はダンナと別れてもいいと瞬間的に思いましたけど、塚原さんを見たら、もう面倒臭そうな顔してたんです。本当に肉欲だけだったんだなと悟りました。でも、正直また会いたいと思ってしまう。塚原さんの奥さんが妬ましくて仕方がないんです」
針のむしろに座っているような心境で、七海は塚原と別れて夫と家に戻った。不倫はバレてしまったが、夫は世間体を気にするタイプだし、家事は何もできないし、三下り半を突き付けられることはないだろうと高をくくっていた。しかし、現実は甘くはなかった。
「ダンナは、私がほかの男に舐め回されている場面が思い浮かんでしまうと言うんです。怒りや苦しみがこみ上げてきて、許すことができないって」
伝え方や行動は褒められたものではなかったにせよ、七海の夫は彼女を愛していたし、信じていたのかもしれない。
「時間は戻せないので、今さら悔やんでも仕方ないんですが、ダンナはもう離婚届にサインしていて、毎晩のように子どもが寝た途端に離婚を迫ってきます。私は自営業者とはいえ、1人で子どもを抱えて食べていくことはできません。だから離婚はしたくないんです。
正直、ダンナに男としての魅力なんて感じません。あの人は私にとってインフラです。あっちもそうだと思いますよ。時間が解決するまで、根負けしないように頑張ります」
今さら悔やんでも、と言いながら、心なしか七海の表情には後悔のニュアンスなど見て取れない。夫が本気で離婚するわけがないと、どこかで信じてでもいるかのようだ。
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