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『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』のプロローグを読む

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長戸は彼らがつくる大スペクタクルの『ウルトラクイズ』にひと目で“恋”におちた。
司会の福留が「ニューヨークへ行きたいか!」と叫ぶと集まった挑戦者たちは「オー!」と答える。○×クイズの一発勝負で勝敗が決まり、海外旅行の準備をして空港に集まった者たちに用意されたのはじゃんけんという運だけの勝負。負ければそのまま帰宅だ。ようやくグァムに向けた飛行機に乗り込むもそこで待っているのは機内ペーパークイズ。その成績が悪ければ、グァムの地を踏むことなく日本への飛行機にそのまま戻される。ドロンコクイズ、バラマキクイズなどの名物クイズを「知力・体力・時の運」を駆使して戦う。負ければ過酷な罰ゲームが待っている。ニューヨークまでたどり着けるのはたった2人。自由の女神の眼前で最後のクイズに挑むのだ。それに勝てば栄光が待っている。『ウルトラクイズ』王者という称号はクイズ好きたちには何より価値があった。
毎年秋が深まるとやって来る『ウルトラクイズ』の季節。
「早く来い来い木曜日」
長戸たちクイズ少年たちは木曜日を待ち望んだ。彼らにとって、それはまさに「史上最大の木曜日」だった。
この番組に出場し何としても優勝したい。中学生の頃、そう決心すると彼はそれを目指し「クイズ」を始めた。クイズを“始める”というのは一見奇妙な表現かもしれない。一般的にクイズは始めるものではない。しかし、スポーツを本格的に始める人がいるのと同様にクイズを本格的に始める人たちが確かにいる。

『ウルトラクイズ』最大の特徴は、長いツアーがあることだろう。決勝まで残れば、約1ヶ月間番組に拘束される。大学生ならともかく、会社勤めをしている人にとってはあまりに大きな負荷だ。だから、1次予選を通過しても、ツアー参加を辞退する人も少なくない。常識的に考えれば、それが「正しい」判断だろう。クイズ番組に出るために人生を棒に振るなんてバカげている。けれど、そうは考えない人たちが成田空港に集うのだ。ある者は「人生捨てます!」と宣言し、数日後に迫った就職試験を反故にしてじゃんけんに挑み、ある者は、「有給休暇の範囲内ならいいが、それ以上伸びたらキミの将来のために良くない」と脅され、辞表を出す覚悟で勝ち進んだ。そんな風に人生を賭けて参加するから、自然と人間味があらわになる。そうまでして得られる優勝賞品は、砂漠のど真ん中の土地だったり、自分で組み立てなければならない小型飛行機、超絶駆け足の世界一周の旅、満潮時にはほとんどが水没してしまう小島などまったく役に立たないものばかりだ。けれど、役に立たないからといって、価値がないわけではない。それこそが、彼らのロマンだ。
前述のようにクイズは「役に立つ」と思われがちだ。幅広い知識を必要とするクイズは受験勉強にも役に立ちそうだと。けれど、役になんか立たないと長戸たちはきっぱり言う。クイズは問題を出されたら最短距離で正解を導き出す、ただそれだけのものだ。たとえば、タイトルや著者名、あらすじや書き出しを知っていても、本は実際に読んでいない。地名や特産物は知っていても、その土地の人たちがどんな営みをしているかは知らない。それでいいのがクイズなのだ。決して「生きた知識」ではない。だから、実生活で役に立つことなどないのだ。せいぜい人にうんちくを語れることくらいだ。
では、なぜやるのか。
愚問だ。
楽しいからに決まっている。
問題を聞き誰よりも早くボタンを押し、鮮やかに正解した時の快感。かつての自分には越えることのできなかったような相手に立ち向かい勝利することができた達成感、究極的にいえば、自己満足の世界でしかない。いわば「ムダ」なものだ。けれど、彼らはそんな「ムダ」に青春の時間すべてを捧げたのだ。



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