ハンバーガーメニューボタン
FORZA STYLE - 粋なダンナのLuxuaryWebMagazine
LIFESTYLE NEWS

『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』のプロローグを読む

無料会員をしていただくと、
記事をクリップできます

新規会員登録

テレビの歴史とは、即ちクイズ番組の歴史でもあると言っても過言ではない。1953年2月、日本におけるテレビ放送が始まるとともに生まれたテレビ番組は『二十の扉』、『ジェスチャー』(ともにNHK)といったクイズの形式をとる番組だった。多くの番組が先行するラジオ番組を移植するような形だったのに対し、特に後者は、ジェスチャーによって答えを導くという、テレビならではの「動き」に焦点を当てた番組だ。それ以降、多少の増減はありつつも、その時代時代に合わせた形式のクイズ番組が作られ続けている。それはクイズこそ、「テレビ」の特性にもっとも合致した形式のひとつだということに他ならない。
まず第1は、「情報性」があるということだ。基本的にクイズは知識を問うことが多い。それらの問題と正解は視聴者の知的好奇心をある程度満たしてくれる。いわば「役に立ちそう」なものだ。もう1点は、「参加」できることだ。参加といっても、解答者として実際に番組に出演するだけが参加ではない。画面の中の解答者と一緒になって問題を考えることも「参加」だと言えるだろう。視聴者が参加することは、前のめりで番組を見ることに繋がる。もう1点はその「ドキュメント性」だ。クイズ番組がドキュメンタリー的要素を持っているのは自明のことだ。問題を前に慌て苦悶する解答者。記憶からひねり出し、あるいは、閃きで正解を導き出し喜びを爆発させる姿。そこからにじみ出る人間性。それらをクイズという一見シンプルな装置はあぶり出す。そこに視聴者は感情移入し、ロマンを感じ取るのだ。
クイズ番組の歴史とは、いかにそのドキュメント性を引き出せるかの模索の歴史だと言えるだろう。そんなドキュメント性を極限までクローズアップさせた番組が『ウルトラクイズ』だ。この番組が誕生した頃は、視聴者参加番組が全盛を極めていた。代表的なものだけでも2021年まで地上波で放送されていた『パネルクイズアタック25』(75年~)をはじめ、『アップダウンクイズ』(63~85年)、『ベルトクイズQ&Q』(69~80年)、『クイズタイムショック』(69~86年)、『クイズグランプリ』(70~80年)、『クイズ・ドレミファドン!』(76~88年)、『クイズダービー』(76~92年)、『クイズDEデート』(77~85年)『クイズ100人に聞きました』(79~92年)、『100万円クイズハンター』(81~93年)など数多くの番組が放送され、その中で市井の「クイズ王」たちが生まれていった。
そんな状況の中で誕生した『ウルトラクイズ』は、「出場」するだけなら、他の番組に比べ格段にハードルが低かった。何しろ、応募ハガキを正しく記載すればほぼ全員出場することができたからだ。まだ海外旅行が「夢」だった時代、多くのクイズ番組がハワイなどの海外旅行を優勝賞品にしていた。だったら、ニューヨークまでの旅行自体を番組にしてしまえばいいのではないか、と逆転の発想で生まれた企画だった。そのかつてないスケールの大きさに出場者はもちろん、視聴者も魅了された。
俺たちも出たい――。
そう思わせる魔力が『ウルトラクイズ』には間違いなくあった。事実、第1回大会では400人余りだった出場者は第2回には700人、第3回は1300人超、第4回には約2700人……と倍々ゲームのように急増していった。この『ウルトラクイズ』の盛り上がりに比例するかのように増えていったのが、大学のクイズ研究会だ。80年代半ば以降の球場での1次予選には、数多くの大学のクイズ研究会ののぼりが立っていた。他のクイズ番組よりはるかに「運」の要素が強いこの番組。だからこそ、本戦への出場は、叶いそうで叶わないもので、魔性の魅力を放っていたのだ。クイズ番組のひとつというよりも『ウルトラクイズ』というテレビ番組自体に惹かれた、多くの若者たちの人生を変える力を持っていた。

番組上「出題・海外リポーター」という肩書で、司会進行とともに問題を読む役割を担ったのは福留功男。『ウルトラクイズ』を象徴する男だ。彼のそこはかとなく意地悪でいて父性あふれる司会が番組を形作っていた。もともとアナウンサーとしてくすぶっていた福留を抜擢したのは、この番組を立ち上げた佐藤孝吉だった。佐藤は、長嶋茂雄の引退試合特番を手掛けたり、エジプトに実際に古代エジプト人と同じ方法でピラミッドを再現したり、スケールの大きなドキュメンタリーをつくる“テレビ屋”だった。そんな佐藤が「クイズ」というテレビの創世記から存在するフォーマットを使って、まったく新しい壮大なスケールの人間ドキュメンタリーを生み出したのだ。



RANKING

1
2
3
4
5
1
2
3
4
5