——ご著書でも父親の持つ父性と母親の持つ母性の役割分担がある、と述べておられます。
「例えば病気を抱えた子ども。お母さんは「大丈夫?辛くない?」と共感する。子どものすぐそばに寄り添う。そのような母性によって子どもは、 たとえ重い病気と闘っていても大きな安心感を得ることができます。
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他方お父さんは、どういう理由で病気になったのか、治療には何が必要でどのくらいの時間や費用がかかるのか、と理論的に子どもの病気と闘う。情と理の違いがはっきり出る。医師も、お父さんに は理路整然とありのままに病状を話したとしても、お母さんには心を込めて「大丈夫ですよ」と大船に乗ったかのような安心感を与えるように言葉を選ぶ。
もちろん、豊かな母性を持つお父さんに出会うことも珍しくないし、たくましい父性を持つお母さんもたくさんいます」
——36年間、子どもを診察されて最近の変化、気がつくことは?
「最近、ニュースなどで虐待がしばしば取り沙汰されます。昔から児童虐待はあったわけですが、殴る蹴るの 身体的暴力に加えて、 精神的な虐待、例えば子どもの面前で激しい夫婦喧嘩やDVが行われるなど、虐待が多様化し、巧妙になり、深刻になってきていると感じます。笑わない、能面のように無表情で意思を示さず、誰とも話したがらないなど、 重い虐待の被害者が増えてきているように感じます。
到底理解できない ような行為におよぶ親もいます。子どもを 黒いビニール袋に入れて 空気銃で撃ったり、舌にタバコの火を押しつける。 まだ歩けもしない 赤ん坊の両足を熱湯につけ火傷させる。 病院では「勝手に 熱いお風呂に入ろうとして火傷した」と見え透いた嘘をつく。熱い焼き肉用ホットプレート の上に立たせた 例もあります。足の指のほとんどが紫色に内出血していた子もいました。おそらく金槌か何かで潰されたのでしょう。
虐待を受けている小さな子どもたちの多くが、加害者である親たちを庇うことも悲しい驚きです。 タバコの火を押し当てられて 火傷した舌のことをたずねても「アッチッチしちゃった」と 繰り返すのみで、とにかく親を庇おうとする」