共に北海道の高校、女子大を卒業した麻美と乃江は、就職先は違えど共に同じタイミングで上京した。高校大学時代にも仲の良い距離感ではあったが、上京してからはさらに距離がぐっと縮まったのだった。
専門商社の事務職として働く麻美と、税理士事務所の補助職として働く乃江。北海道から上京する女子の同級生は少なかったこともあり、2人は上京後にも週末によく会う仲間だった。
ときには一緒に東京観光をし、ときには一緒に麻美の好きな男性アイドルのライブへも通った。商社マンと結婚して寿退社したいとこぼす麻美に対して、税理士事務所で資格取得をしながらスキルアップを目指す乃江は対照的な部分も大きかったが、東京という知らない土地を生きる2人にとっては、お互いがかけがえのない大切な存在だった。
だからこそ、麻美の突然の結婚宣言に乃江が驚いたことは言うまでもない。
それまでも、あの人と付き合っただの、マッチングアプリで良い人がいないだの、会うたびに恋愛話を繰り広げていた2人だったにも関わらず、ある日いつものようにカフェでおしゃべりをしている途中で「私、今度結婚するかも」とさらりと麻美が放った言葉に、乃江は衝撃を受けた。なにそれ、聞いてない。
誰かと付き合ったという話も聞いていないのに、え、突然、誰と?
「お、おめでとう……?」
そして思わず疑問形で伝えてしまった乃江の表情を見て、麻美が笑う。
「そうだよね、びっくりだよね。私もびっくりなの」
「え、誰なの? これは質問責めにしないとっ! もう! 言ってよね!」
「ごめんね、実は……できちゃった婚だからさ」
「えーーー! ダブルにおめでとうじゃん!」
カフェのど真ん中で、乃江は思わず大声を出す。周囲の客に申し訳ない気持ちになった麻美が、一本指を口元に当てて「こらこら」といさめる。ごめん、と照れながら乃江は麻美の両手を握って振りながらさらに言葉を続ける。
「本当に本当におめでとう、できちゃった婚でもいいじゃん、おめでたいことに変わりはないんだから」
「そう言ってくれると嬉しい、イマドキ珍しくないとは思ってても、出来ちゃった婚なんてやっぱりちょっと恥ずかしいからさ」
「来週の女子会で、またしっかり祝わせてよ。だけどお相手、どんな人なの?」
「うーん、なんて言えばいいんだろう。恥ずかしながら実はマッチングアプリで会った人で……この人なんだけど」