「まるで知っていたけれど、黙認していたというような言いっぷり。でも、そんな事実は全くないし、そんな気持ちは私もご主人様もさらさらない。そんな雰囲気にもなったことも一度もないと伝えました」
とたんに表情を曇らせた理恵は突然叫びだした。
「なんで? なんで不倫しないの? 彼には十分に楽しめる自由なお金と、私が自宅にいない二人の時間を十分に与えているじゃない!」
あっけにとられている美津子に、理恵はたたみかけるように続ける。
「私は下準備だってばっちりしてきたのよ。夜の生活は求められても一切断ってきた。家ではお洒落もせずに過ごし続け、基本彼の生活には一切干渉せず、彼には興味がないことをアピールしてきたのよ。なのに、なんで? もう役立たず! あなたなら上手く働いてくれると思っていたのに! 計画が台無しよ! レッスンはもういい! あなたにはもう用はないから帰って!」
「……理恵が、一体何の話をしているのかわかりませんでした。役立たず? 上手く働く? 私は料理を教えるためにレッスンをしていただけなのに。でも、理恵のいわれのない怒りと剣幕に返す言葉も気力もなく、彼女の自宅をあとにしました」
突然訪れた、予想もしていなかった出来事に、心の整理がつかず、自宅マンション下にぼーっと座っていた美津子。その目の前を一台の車が……。
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