彼女は悪者でも見るような目つきで、ぼくの手を握り返してきた。その手は汗ばんでいた。
マンガや小説で女がアパートに転がり込んでくるシーンがあるが、まさか自分に起きるとは思わなかった。
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©gettyimages
翌朝、目覚めると彼女は化粧を終えていた。しかも昨日と違うブラウスを着ていた。
そういうことかと思った。
むかしナントカ山という相撲取りが、
「相撲は相手も相撲を取る気になっていないと本番が成立しない」
と言っていたが、それはこういうことだったのかと、やっと意味がわかった気がした。
彼女のほうがずっとうわ手で、青二才の考えていることなど何もかもお見通しだったのだ。こちらが喜ぶように口説かせてくれたのだ。
「会社行こう」
ぼくらはタクシーで会社に向かい、ちょっと手前で彼女が降り、ぼくは会社の前でタクシーを降りた。ぼくらはこんな付き合いを繰り返していった。
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