「情けなさやら恥ずかしさやらで私はかなりイライラしていたと思います。対照的に息子は、飄々とどうやってスマホの使用時間の制限を解放したのかを話し始めました」。
スマホのさまざまな制限を行うためには、パスワードが必要だ。息子はそれを知っているというのだ。
「手の動きで大体の数字を予測してあとは、隙を見て盗み見たと。気がつかない私に落ち度があるとでも言いたげでした。あまりにも平然というので、それは犯罪に当たると詰め寄りましたが、息子は気に留める様子もなく、みんなやっているよと」。
「すぐにみんな、みんなって、みんなって誰よと問い詰めましたが、息子は無言。いつからこんな風になってしまったのか…」。
一葉さんはすぐに暗証番号を変更した。しかし、息子はそれだけではスマホの使用時間は減らないと言い出したのだ。
「ほかにも抜け道はいくらでもあると。それらすべてブロックすることは私にはできないというんです。耳が聞こえなくなるかもしれない人が、それでもまだスマホを使い続けるって異常じゃありませんか?これこそ、依存だと言いましたが息子は涼しい顔。しばらくはイヤホンはつけないよというだけでした」。
2ヶ月近い通院で、耳はなんとか治った。しかし、医師からは再発しやすいので注意するよう言われたという。
「1時間イヤホンをしたら、少し休ませるなどの工夫が必要だということでした。そのことについては、息子も真剣に話を聞いていましたし、イヤホンを学校ですることはもうしていないと話していました。ただ、スマホの使用時間に関しては、今もいたちごっこ。何度制限をかけても、かいくぐって長時間使用しています。どうやったら、この状況を打破できるんでしょうか…」。
平塚氏は話す。
「内閣府が発表した青少年のインターネット利用環境に関する実態調査によると、平日1日の平均利用時間は高校生で5時間45分です。平日は学校ですから、これくらいでしょうが、部活動などをやっていない場合、休日は10時間越えという人も少なくないのかもしれません。一葉さんはスマホを使う=悪いことと一辺倒になってしまっていますが、今やスマホを使って学習をすることもあるでしょうし、本だって読めます。まず、どんな使い方をしているのかを知ることが必要でしょうね。それに本人が納得していない上で制限をかけたところで、デジタルネイティブたちはどんどん制限をかいくぐってきます。スマホでゲームやSNSばかりしていては、この先が心配という気持ちはわかりますが、相手は数年後には、成人になる高校生です。制限だけに頼るのでは、解決は難しいかもしれませんね」。
子どものスマホに使用制限をかける、それだけで満足している親には耳が痛い話である。
取材・文/悠木 律