2018年に経済協力開発機構(OECD)が発表した79の国と地域の15歳を対象とした国際学習到達度調査(PISA)の結果、日本の読解力ランキングは15位であった。
3年ごとに行われるその調査は、コロナなどの影響もあり1年時期がずれて、昨年、もうすでに調査そのものは行われている。
結果の発表は今年。さて、いかに、といったところである。
ちなみに2015年の順位は8位。
たった3年で15位へと急落した2018年当時は、様々なメディアで「読解力低下」という言葉が取り上げられ、「日本の教育の基礎の崩壊」などとうたわれた。
しかし2023年現在、その当時よりも状況は深刻だという意見が現場の教員たちの間で一致している。
現場にいる教員たちは、データや数値以上に、「子どもたちに言葉が通じない」という場面に実際に何度も遭遇しているのだ。
子どもたちを批判し非難するのでもなく、原因をなんとか究明し対策を練ろうとしては途方に暮れ、ただただ驚愕し、「この先の日本」に対する危機感を覚えている。
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「2003年の調査で、読解力が2000年の8位から14位に落ちた時も『第1次PISAショック』なんて言われてちょっとした騒ぎになりましたけど、今回はもうどんなに低下していても、話題にすらならないかもしれませんね。
言葉を知らなくて集中力のない子どもが、今や当たり前というか、大多数という感じですもの」

そう話すのは、田渕悦子さん(仮名・48歳)だ。彼女は関西圏にある高校の国語教員で、現在高校2年生の担任をしている。
「今の子どもたちは語彙力がないなんて話をすると、多くの場合『年配による今の若者批判でしょ』みたいなことを言われます。
でも私は、批判をしているのではなくて、このままでは良くないしなんとかしなければと思っているんです。それに、語彙力がないことで、実際に子どもたち自身が苦しんでいる。実はそこに気付いていない方が結構多いのではないでしょうか」
自分自身も苦しそうな顔をしながら話す悦子さんの受け持つ学級には、「自分が何を嫌だと感じているのか」を明確に説明できない生徒が数人いるという……。
後編では、悦子さんをはじめ複数の教育関係者から聞いた話をもとに、現代の子どもたちの「語彙力低下」の実態を詳報していく。
「私のクラスのAさんは、同じクラスのB君が強い調子で発する言葉に過敏に反応しているようでした。B君が強い調子で彼女に何か質問をしたり、彼女の持ち物などについて意見を述べたりすると、いつもちょっとだけ表情が歪むんです」
ただ、B君自身に悪意がある様子はなく、むしろAさんとは『仲の良い友達』と認識しているようだったので、悦子さんはしばらく様子を見ていた。
Aさん自身も、どちらかといえば活発なタイプなので、不快に感じることがあれば直接B君に伝えるだろうと悦子さんは考えていたのだ。
「でも、その私の考えは甘かったようです。
Aさんは、B君との座席が近くなってから、遅刻や欠席が増えました。理由は『なんとなくだるい』とか『やる気が出ない』というようなもので、周囲の友達にも『最近全部がキモい』と愚痴をこぼしていたようです」
そこで悦子さんは、彼女は「自分が嫌だと思うもの」を、言葉でうまく説明できない状態にあるのではないかと思い当たったそうだ。