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【後編】妻が認知症の姑に笑顔で「お帰りは待ってませんから」...夫に明かされた積年の恨みとは 

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「私は数日悩んでから、妻に母を施設に入れようと提案しました。うちの母は将来絶対老人ホームに入りたくないと言っていたので、できる限り家にいさせてやりたかったです。でも、妻が母の失踪を望むほど恨んでいるなら、施設に入れた方がみんなのためでしょう」

喜ぶかと思った妻の反応は意外なものだった。

「お義母さんのことだから、並みの所じゃ満足しないわよ、と言うんです。さらに、本人の年金だけで賄えないような施設なら入れたくない。

お義母さんのためにお金をたくさん使うなんてご免被ると、はっきり言われました。急に本音を言い出したので、面喰いました。娘から何か聞いて開き直ったのかなと思いましたね」

しかし、「わざと徘徊させているんじゃないか」とはさすがに聞けなかったという雪彦さん。

「長年連れ添った妻ですが別人に見えましたし、人の闇を見た気がしました。いつになく強い口調で反論してきた妻に対し、お袋に対して何かあるんだね?と聞いてみたんです」

妻は、雪彦さんと結婚して二世帯同居を始めてからというもの、ずっと姑から実家の悪口を言われ続けてきたことを告白した。

「結納返しもろくに知らない非常識な親」と笑われたことに始まり、実家がある地域についての差別的な発言や、親きょうだいの外見・経歴に対する中傷を受け続けてきたというのだ。その中傷は認知症の兆候が見られる少し前まで続いたと。

「私は本当に何も知りませんでした。母がそんなことを言う人間だとも思っていなかったし、妻がそれに耐えていたこと、表向きは仲の良い姑と嫁であり続けたこと、全てがショックでした。私はもう、自分が情けなくて」

雪彦さんは母親の年金で賄える施設を探し出すことを妻に約束した。

「これ以上妻にどす黒い感情を持たせたくないと思いました。そもそも、このままでは母は本当にいつか大きな事故にでも巻き込まれてしまうかもしれません」

雪彦さんはすぐに地域支援包括センターに連絡を取り、相談を開始したという。予算は少しオーバーしてしまったが、担当者が親身に対応してくれたお陰で、希望条件に近い施設が想像よりも早く見つかったそうだ。

「母親は施設に入ることを、拍子抜けするほどあっさりと承諾しました。旅行か何かと勘違いしたようなのです」

雪彦さんにとっては大切な母親だが、妻の言い分を疑ったり否定したりすることは、夫婦間の亀裂を深めることに繋がりかねないため思い留まった。

姑がいなくなった家で何を思うのか、妻は姑が入った施設に一度たりとも面会に行こうとはしないという。雪彦さんは、もしかすると自分も恨まれているのではないか、と近ごろ気が気でないそうだ。

取材/文 中小林亜紀



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