結局、その日は1時半過ぎまで飲んだという。広い通りに出て同僚と後輩をそれぞれタクシーに乗せて、美穂子は帰宅の途についた。美穂子の家はここから歩いて15分程度。
酔い覚ましにはちょうどいい。裏道に入り、歩き出すとスマートフォンがなった。画面表示には彼の名前が浮かんでいる。忘れ物でもしたのかと電話に出ると「今、どこですか?」と尋ねられた。
「すぐに彼が走って追いかけてきました。危ないんで送りますと。確かにこれまで彼の家にきたときは、同じ方向のメンバーがいたので1人で帰ることはありませんでした。とはいえ、私もいい年だし大丈夫だよと言うと真剣な顔でそんなことないですと言われて……。結局送ってもらうことにしました」
道すがら、彼はさっき泣いちゃってすみませんと言いながら、ぽつりぽつりと話を続けた。それから、男が泣くことに対して、美穂子が引いていないかをさりげなく聞いてきた。
「奥さんにすごく責められるらしいんです。泣いてしまうことを。男のくせにって。私は全然、と言いました。むしろ、いいなと思ったよと正直に伝えました」
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