【前編あらすじ】
出張先の地方都市でとある洋食屋を訪れた高山このみさん(仮名・このみさん)。落ち着いた雰囲気や若いアルバイトの感じの良さから、「良い店を見つけた」とディナーを満喫していた。しかしメインのハンバーグにナイフを入れた時、肉ではない何かを見つけてしまう・
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運ばれてきた赤ワインを口にして、いざ! とハンバーグにフォークを入れたときだった。何か肉でないものにあたった感触が手に伝わってきた。切り分けてみるとそこに見えたのは、青いビニール片だった。
「おそらく、ですけど、それは使い捨てタイプのゴム手袋でした。指先の部分だったように思います。青いビニール片を皿の上に引き出すと残念な気持ちが込み上げてきました。だってここまですごく美味しかったから。ビニール片を取り除いて食べる気持ちはもちろんありません。食べる気も一気に失せてしまいまったので、取り替えてもらうのも……。どうしたものかなと思っていたとき、厨房から女性が出てきたんです」
店内をぐるりと見渡した女性とこのみさんは目があった。ビニール片はこのまま知らんぷりして食べるわけには至らないほどの大きさだったし、しかたないと観念して、女性を呼んで話をしたという。
「冷静に冷静に話しましたよ。別に闇雲にキレたかったわけではないので……」
ところがこのみの話を半分も聞く前に女性は厨房に向かって走って行き、また大声で怒鳴った。このみさんはげっそりした。
「やっぱりな、と。あの男の子の方を捕まえて話せばよかったと本当に後悔しました。怒鳴り声や何かが落ちる音がしていて、3分経っても、5分経っても彼女は戻ってきません。困ったなと思っていたところにバイトの男の子が出てきました。彼を呼び止めて、事の顛末を説明して、ハンバーグはもういいのでお会計をお願いしたいと言いました」
すると今度は女性が出てきて、急にこのみに大きな声でこう言ったという。
「今大急ぎでもう一度焼いているので、食べて行ってください」
このみさんは困ってしまった。一度、ビニール片が入っていたハンバーグを食べたい気持ちはどうしてもわかない。
「申し訳ないのですが時間もないので今日は大丈夫です、とお伝えしたんですが……」
女性は譲らなかった。それどころか勝手にもう1杯赤ワインを注いで待つようにと立ち上がるこのみさんに詰め寄ったのだ。