「お乳が大きいんだね...」あまりにキモすぎる舅のセクハラ
国立社会保障・人口問題研究所が2019年に実施した調査によると、配偶者のいる女性が夫の親と同居している割合は、全体の8.7%。一方、男性が妻の親との同居割合が3.2%だから、その差は歴然だ。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏が言う。
「結婚までした男の親とはいえ、相手は赤の他人。世の1割近い既婚女性がその赤の他人と暮らすことのリスクを抱えており、実際に悩んでいる人も少なくないんです」
関東地方に住む田上琴子(32・仮名)は、かねてから交際していた信也(仮名)が郷里に帰るのを機に結婚。夫の両親の家を二世帯住宅に大規模リフォームして移り住んだのが、そこで待っていたのが地獄の日々だったと言う。
「夫の父親は長らく教育者だったんです。もともと遠方に住んでいたので、何度かしかお会いしたことはなかったんですが、教育者=人格者というイメージを勝手に持っていた私にも油断があったと思います」
田上琴子は色白で垢抜けた雰囲気の女性。リネンのゆったりとしたプルオーバーにデニムを合わせ、華奢なパンプスを履いている。ゆるいウェーブのかかった髪は、ショートながらセクシーさを感じさせた。もともとはアパレル会社で広報をしていたという32歳。今は友人と組んで小さなブランドを立ち上げ、衣類や服飾雑貨をオンラインマーケットで販売している。
「二世帯住宅を繋ぐ内部通路にドアがあるんです。そのドアに鍵をつけるかどうか、4人でかなり話し合いました。でも、そのうち子どもが生まれたら、簡単に行き来できるほうがいいとか、いつか両親に介護が必要になった時や緊急時に備えたほうがいいということになって、鍵をつけなかったんです」
二世帯住宅に越してきた夜、琴子夫婦は親の住む棟で親夫婦と4人、ささやかな宴を開いた。母親は優しく物静かな人で、ビールの入ったグラスに口を付けただけで酔ったと言い、食事を終えると先に休んだ。
琴子夫婦と舅は、これからの暮らしではお互いにプライバシーを守ろう、とか、でも子どもが生まれたら協力し合おう、などと前向きな会話で盛り上がることができた。琴子は、この親となら、うまくやっていけるかもしれないと内心安堵した。
「でも、舅の化けの皮はすぐに剥がれました。普段お酒を飲まないダンナも珍しく何杯かビールを飲んだので、酔って先に私たちの棟に戻ってしまったんです」
琴子は思い出すのもイヤといった顔つきで、声を絞り出すように続けた。
「お乳が大きいんだね、って義父がいきなり言ったんです。私、耳を疑って思わず聞き返しました。もう、キモすぎ…言いたくないんですコレ。吐きそう。お乳って…」
食卓で琴子と向かい合ってまもなく、それまでとろんとしていた目を見開いた舅は、臆面もなくセクハラを開始したのだという。ゆったりとしたトップスの上からでも見て取れる琴子の豊かな胸の隆起が、老齢の「人格者」の理性を失わせたのかもしれない。
「もう、そのあとは最悪です。オレはもう何十年も女房とヤッてないとか。びっくりし過ぎて固まってしまいました。さっきまでの大人な態度は何だったのかって」
琴子は舅の発言の下品さはもとより、70歳に近づいた男性にここまでの性欲があることにショックを受けた。身の危険を感じ、恐怖心も覚えた。
「私、年がいもなく泣き出してしまったんです。言い返すこともいなすこともできずに、ただ怖くて気持ち悪くて。でも泣いたのはまずかった。あれで、こいつイケるなとナメられちゃったのかも」
そのまま逃げ帰るように若夫婦の棟に戻った琴子は、眠りこけた夫を起こして話を聞いてもらおうと考えたという。しかし、夫の体をゆさぶっているうち、父親を心底尊敬している彼にとてもこんなことは言えない、と思い直した。というよりも、言ったところで信じてもらえるだろうか。「お乳が大きい」と言ったあの男は、これまで夫から聞いていた人物像とあまりにもかけ離れている。
「その日は仕方なく最悪な気持ちのまま布団に入りましたけど、私たち夫婦と両親の寝室が隣合わせなので、今ごろ壁に耳あててんじゃないかあのジジイと思うと、怖くて。次の日、新聞を取りに出たところで待ち伏せしてたんです、義父が。ぎょっとしましたよ…それで、ゆうべはすまなかった、あまり覚えていないんだが、琴子さんに失礼なことを言って泣かれたことは覚えてるって。酒が弱いのに、昨日は嬉しくて飲み過ぎたって…」
そう言われたらその言葉を信じるしかなかった、と琴子は言う。悪夢だったと思うことにしようと。しかし、琴子を恐怖のどん底に突き落とす本当の悪夢はそこからだった。
結婚前に琴子がいた会社では、セクハラやパワハラを含め、コンプライアンスに関する研修を徹底していた。そのせいもあってか、会社ではセクハラまがいの言葉さえかけられたことがない。セクハラなど、遠い世界の話だと思っていた。
お酒に弱い家系だから、飲酒した時だけの苦行だと我慢するしかないのか。琴子は葛藤しつつ、引っ越し当日に早速起きた舅のセクハラ事件のことが頭から離れないことに悩んだ。
舅についての悩みを保留にして過ごしていたある日、夕飯の買い物から帰り、洗濯物を片付けようと洗面所に入った琴子は、チェストの上に広げて日陰干ししていたブラジャーの異変に、ふと気が付いたのだという。
繊細なレースで覆われたピンクのブラジャーは、干した時とは裏返しになり、カップの形も崩れていた。下着の洗濯方法にこだわりがある彼女は、必ず決まったスタイルで干しているので勘違いであるわけがない。
「胸にあてるほうの内側が、天井を向いていたんです。しかも明らかに一度手に取って置いたような感じで…すぐピンときました。あの変態ジジイだって」
琴子は恨みのこもった口調で言った。舅がやったという証拠はなかったが、その想像の画が琴子の脳裏から消えることはなかった。ピンクのブラジャーに頬ずりしている舅の映像が勝手に何度も脳内でリプレイされ、激しい嫌悪感に襲われた。
「ダンナに言おうかと思ったけど、証拠もないし、何て言えばいいかわからなくて。だってあのジジイ、現役の教師の頃は、不登校児の家に足繫く通って相談に乗ったり、戦争体験者の方を集めて子どもたちに話を聞かせたり、赴任する先々で素晴らしい先生だって言われてたんですって。ダンナはほんとに自慢のオヤジとか思っちゃってるんです。友達にも言えませんよ。幸せになってると思われてるんですもん」
確証が持てないまま、夫の夜勤日が来てしまった。琴子は鍵のないあのドアのノブに鈴をかけ、まさかの事態に備えた。姑は夜の9時にはベッドに入る。睡眠導眠剤を使うので、かなり深く寝てしまう。琴子は怖くてたまらなかった。
予感は的中した。23時前、入浴後に体を拭いていると、洗面所のドアが廊下側からカタカタと鳴り、琴子は思わず声を上げた。深い時間になって、舅はもう寝ただろうと油断していたし、シャワーの音で鈴の音は聞こえなかった。洗面所のドアの鍵を、いつもどおりかけていたのがせめてもの救いだ。素肌が露わになった無防備な姿で、琴子は震えを止めることができなかったという。
「琴子さん、お風呂だったかね?」
悪びれもせず、いやらしい声色で舅が言った。それにしても、どうやって入浴のタイミングを知ったのか。
「あの、どういうつもりですか。信也くんに言いますよ」
「何のこと? ちょっとねえ、電池が見当たらないんだよ、急いでるの。単3なんだけど、余ってるやつ、ない?」
とぼけた様子で舅がドア越しに言った。
「あの、プライバシーは守るってお話でしたよね。勝手に入ってくるのやめてください」
勇気を振り絞って琴子は言った。姑よ目覚めろ、という思いを込めて、大声で怒鳴るように。
「困ってる時は助け合おうっていう話だったよね。琴子さんは、意外と冷たい方なんだね」
「悲鳴を上げたりダンナに電話をかけたりとか…何か行動したら良かった。何も思いつかないくらい動転してたんでしょうね。この問題を解決するには、ダンナかお義母さんか、どちらかに相談する以外に選択肢はないと思いました。私の親に言ったら殴り込みに来ちゃうかもしれないし、離婚させられるかもと思ったので。せっかくお金をかけて立派な住まいを建ててもらいましたが、ちゃんと誰かに打ち明けて、ダンナとマンションか何かで暮らせば、ひとまず大丈夫かなって」
悩んだ挙げ句、なんど琴子が相談相手に選んだのは夫ではなく姑だったという。
☆次回では琴子さんが取った作戦について詳報する☆
ライター 中小林 亜紀