「でもまあ、ぐずぐず言っていても仕方がないですからね。可哀想なのはこの変革、変革のさなかにいてこれに振り回されている子どもたち。私たち教員は、なんとか彼らがこの変革の中で不利益を被ることがないようにと注意して情報を収集しつつ、指導を続けていくしかないと思っています。できればこの改変について子どもたちが納得のいくような説明をしてやれたら…とは思いますけど……それが難しくて悩むなあって感じですかね。
私たち教員同士では、不満を話し合いはしますけど、決して子どもたちには言わないように気を付けています。あまりにも我々が新しい制度を批判しすぎると、子どもたちが嫌になってしまうでしょう? これからこの改革が続いていく中を生きて行かなければいけないのに、変化を嫌がるような育て方はしてはいけなとも教員同士で話し合うんです」
「変化することを喜び、柔軟に受け入れて行けるようなそんな心を育てておかないと、彼らの未来に何が待ち受けているのかをもはや我々は想像できない。だから私たちは、こういう変更を『改悪だ』とか『改善だ』とかも本当は言うべきではないのかも。子どもたちができるだけ前向きに学習していけるのかどうかが一番大切なんですもの。国がどうであれ、私たち教員の願いは、結局はそこにありますから」
桃子さんを囲む彼女の同僚たちはみな、一様に頷いた。みんな、決意に満ちた表情をしている。
「みんな、わかっているのですよ、言うまでもなく、入試問題を作るということがどれほど大変なのかということは。それも、全国の受験生が統一で受ける試験の問題なんて、大変高度な技術が必要でしょう。与えられた試験範囲を網羅しなければならないし、受験生の本当の実力を試すことのできる問題でなければならない。しかもある程度得点がばらばらになっていなければ一次試験として『共通テスト』を課す意味はなくなってしまうわけですから、それはそれは、とても大変なのでしょうけれど……。でも……と言う気持ちを拭い去ることのできない現場の教員は多いのではないでしょうか。私たちも含めて、ということですけれど」
最後に一番年配の真知子さんがそう言って話をまとめた。
取材/文 八幡那由多