雄二さんはそう言って言葉を詰まらせる。
「元校長の方は、広報活動にはかなり有効な働きをしてくださいますけど、扱いは難しいですよ」
そう言って笑うのは涼子さんだ。
「やっぱりかなりプライドは高いですからねえ。仕事を割り振った職員が『誰に向かってモノを言っているんだ!』と何度か叫ばれたので、最近は仕事を割り振るのではなくて、お願いするって言う形をとっています。
はじめは驚きました。社会人としてはありえませんからねえ。初出社の時にも自分からはご挨拶をなさらずに、こちらからご挨拶に行くのを待ってられて…。普通は初めての場所に言ったら絶対に自分から挨拶をして回りますよねえ。でも、そういう感覚はないみたい。校長先生ってそういうものなのですかねえ」
涼子先生の言葉は、前出の千夏さんの言葉をたどれば嘘ではないとわかる。校長先生を経験してしまった人はみんなどうしても「偉い人」になってしまうのだ。
そして、生徒を愛する先生だった人も、再就職先を探すうちに、生徒を大切にする気持ちを忘れてしまう。
「とっとと、定年と年金受給までの空白の五年なんてものがなくなってしまえばいいと思いますよ。というか私は、定年制度そのものに反対です。自分が判断すればいいと思いませんか?もう働けないかどうかは。国に決められた年齢でやめる必要はないと思います。人によって65でもとても元気な人もいるし60で働くのがしんどいという人もいます。自分で判断すればいいじゃないかというのが私の意見。そうすれば、大学広報になりたがる元校長が教育現場に迷惑をかけるなんてこともなくなるのではないでしょうか」
雄二さんはそう言って深くため息をついた。
取材・文 八幡那由多
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